ハカってワカった話20号 昨年の一ヶ月あたりの測定検体数

昨年の一ヶ月あたりの測定検体数

二宮 志郎

1月のお茶会の時に2016年の測定データについての総まとめの話をしました。その一部について再度ここで紹介してみたいと思います。

はじめに一ヶ月あたりの検体数ですが、まず開室以来の変遷に注目してください。次のグラフです。

開室後3年間くらい急激に落ち込んで、その後は低迷しながらも微減傾向を維持していると言えなくもありません。しかし、2014年からの3年間の傾向を下のグラフのようにして示してみたらどうでしょう。

2016年は2014年からの微減傾向では持ちこたえておらずがくんと落ち込んでいるとも言えます。

要するにどうとも言えるわけで、「測定数の減少に歯止めをかけてがんばっている」と言いたければ、上のグラフだけ見せ、「再び急激に落ち込んできている」と危機感を煽りたければ、下のグラフだけ見せればいいわけです。

政府や大企業が何か統計数字を発表する時は、「何を見せたいか」という意志が必ず働いているでしょうから、こういう細かい操作がいたるところで行われていると思っておいた方がいいでしょう。統計結果の数字で判断するというのも、なかなか一筋縄ではないですね。でも、だからと言って「感覚だけで勝負」という方向に行くのはもっと危険ですから、あくまで注意深くデータを見るということで対処するしかないと思います。

Cs137、100Bq/kgの世界は続く

測定年 検体数 Cs137 (Bq/kg)検出値平均
2012 188 273
2013 188 237
2014 73 115
2015 67 106
2016 38 110

上の表は東京都内で採取した土のCs137の測定データをまとめたものです。条件を統一して測定しているわけではないし、検体数も小さいので、断定的なことが言えるわけではありませんが、Cs137が100Bq/kg程度、表土に平均的に存在している世界に私達が住んでいて、これからも住み続けるということを物語っています。

「どうにもならないことを考えてくよくよしてもしょうがない」、私もそう言える性格でありたいと思うのですが、100Bq/kgの世界から200Bq/kgの世界へ、そしてさらに積み上がっていく世界へと、そういう方向に行く心配は、原発のない世界にならないと消せません。

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広場だより20号 巻頭寄稿文 たらちね見学会で思ったこと

たらちね見学会で思ったこと

維持会員 金子 淑子

 2016年11月14日『いわき放射能市民測定室たらちね』見学会に参加しました。
行きのバスの中では、資料(A4紙7枚)を見ながらハカルワカル広場の佐々木さんの説明で『たらちね』の全体像を予習し、期待とともに改めて気を引き締めました。

子どもたちをはじめ人々を被曝から守り続けることを目的に『たらちね』が開所したのは、原発事故から約8か月後の2011年11月です。「食品などの放射能(γ(ガンマー)線)検査とホールボディカウンターによる被曝検査」から始まり、2012年からは沖縄県久米島「球美の里」での「学童保養」のいわき事務局となり、2013年3月には診療所の認可を受け専門医などによる「甲状腺検診」の開始、2015年4月には市民団体では初の「β(ベータ)ラボ」を開設、β線測定が始まりました。そして2017年4月には「放射能測定室兼検診センター」開設及び事業の開始が予定されています。放射能測定も、汚染水の流出している福島第一原発沖の海洋調査や海水浴場などの砂浜測定など現在多岐にわたっています。

見学に当たっては、事務局長の鈴木薫さんと「βラボ」の責任者工学博士の天野光先生からお話を伺いました。以下は『たらちね』のごく一部、私が特に印象深かったことです。

βラボ β線測定(トリチウム・ストロンチウム90) たらちねメソッド

多少の予習をしたとは言え、見学した「βラボ」はまるでテレビなどで見る先端科学実験室のよう。頭の中は見慣れない機材や装置と聞き慣れない専門用語でいっぱいでした。

でもはっきり分かったことがあります。原発がある限り必ず出ており体内に取り込まれたら深刻なダメージがある「β線」を、何としてでも捕まえようとしている『たらちね』の決意の強さ、機材も人材も測定方法も最高のものを求める徹底性の凄さです。その強さ凄さが、独自のβ線測定分析法「たらちねメソッド」として結実しているように思えました。

「たらちねメソッド」は、「β線を測定記録しておきたい」との「たらちねの思い」に応え、天野先生をはじめ専門の方々が、原発事故後数年の実態を踏まえて生み出した「高精度で短時間」の測定方法です。利用時の測定料金も極めて安価で、専門機関に依頼すると一検体20万円かかる料金が『たらちね』では何と1000円~3000円。様々な努力の結果と分かってはいても、この料金は本当にビックリでした。これなら誰でも利用できます。

また「βラボ」では専門的なトレーニングの必要な測定作業を先生の指導を受け「たらちねメンバー」が担当しているとのことでした。そして精密な装置の横では身近な生活用品が測定道具として使われていました。これならできる範囲で誰でも関われます。

「βラボ」はハードもソフトも市民測定室と専門家のコラボレーションの賜物です。

ママベク測定(TEAMママベク子ども環境守り隊)

子どもたちの環境を守るために母親たちが立ち上げた「ママベク測定」はとても素晴らしいと思いました。「守り隊」はタブレットPCと高感度のγ線検出器を携帯し、校庭や公園や子どもたちの生活場所でのリアルタイムの放射線量を計測記録、ホットスポットを特定してそれを「いわき市役所除染課」に連絡しています。市はこれらの測定結果への対策を市独自に検討し実施しています(例えば同じ場所の複数回除染など)。当初『たらちね』はその測定活動のため「行政への反逆、いわきをつぶす気か」とまで言われたとのことですから、現在のような市との連携に至る道のりは想像に難くありません。しかし確かなことは、『たらちね』の市民による全市民を支えるための活動が市を動かしたという事実です。

「たらちね通信vol.11」には「測定してデータをだし、測定データを共有し子どもたちの暮らしの中に役立てることができてきました」と書かれていました。

放射能測定室兼検診センター(放射能測定から診察検査・相談ケアまで)

『たらちね』の甲状腺検診は専門医が担当しています。エコー検査に加え触診も行われており、親たちはその場でモニターを見ながら医師から詳しい説明を受けているのです。このように人々の「検査結果の理解」を助け「不安な気持ち」に応えることは、結果の程度に関わらずとても大切なこと、報告書一枚の送付でできることではありません。セカンド・サードオピニオンを求め、『たらちね』を訪ねる人も少なくないとのことでした。

鈴木さんのお話では、福島県では半数の親が「県内での子育てに不安を持っている」とのことです。この「不安を安心にかえるため」今進められているのが民間初の「放射能測定室兼検診センター」の開設です。診察検査も心身の相談もケアも一括して行い、隣の放射能測定室と一体となって将来にわたって人々を支えて行く場・・これは誰もが待ち望んでいたことだと思います。その事業説明の中で特に胸を衝かれたのは「形はまだ未定ですが、センターでは小児から思春期の子どもたちの精神的ケアを考えています」との鈴木さんの言葉でした。「たらちね通信vol.10」には「子どもたちの肩には、おろすことのできない重い荷物がのっており、それをどこまで軽くできるかそれが『たらちね』の活動の意味だと感じております」と書かれています。その活動の次の一歩、子どもたち一人ひとりに、その心にも向き合う専門的でかつ日常的で継続的な場が今ここに生まれようとしているのです。その重要性はどんなに強調してもしたりないと思いました。

鈴木さんは言いました。「放射能とは共存できない」、だからこそ「生きるためにより細かくより注意深く放射能測定の精度を上げ数字を残す」、そして「今必要なこと今やるべきことを実行する」と。天野先生は、ゼロから「βラボ」を立ち上げた「たらちねメンバー」との活動を「必要は発明の母」と評しました。

「たらちねの活動」は、その殆どを同じ思いを持つ人々の寄付と協力により支えられているとのことです。「必要」を一つひとつ具体化し「必要」だから様々な困難を乗り越え事業を進めている『たらちね』は、現場そのものであり原発に立ち向かう最前線でした。

帰りのバスの中は「では八王子は・・私は・・」と話の尽きることなく、26人の参加者の26通りの思いが溢れているようでした。

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パブコメ募集のお知らせ

廃炉費用、賠償金の一部を電気料金(託送料)に上乗せして、全国民に払わせようという案が浮上しています。これに対してパブコメを書く機会があります。以下が要綱ですので、短文でもいいので書きたいですね。

要綱は以下の通りです)

【1月17日まで】原発事故費用・廃炉費用- 東京電力が責任を取らないまま、国民負担でいいの??
https://publiccomment.wordpress.com/2016/12/20/baisyohairo/
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みんなで書くパブッ!(パブコメくん)
東京電力の責任が問われないままに、福島第一原発事故の廃炉・賠償費用の一部、
通常の原発の廃炉費用の一部を、「託送料金」で回収できるようにしよう、
という案が、導入されようとしています。
経済産業省の委員会で、9月下旬からのわずか2か月強の議論で「中間とりまとめ」が出され、
現在パブリックコメントにかかっています。

【総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 電力システム改革貫徹のための政策小委員会 中間とりまとめに対する意見公募】
↓資料・提出はこちらから (1月17日〆切)
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620216013&Mode=0

パブリックコメントを経て「中間報告書」となり、今年度中には「経済産業省令」として決められる見通しです。
重要な問題なのに、国会での審議もありません。

◆なにが問題なの? こちらを参考に、3行でもOK!
最大の責任者である東京電力の経営者、株主、そして債権者(金融機関)が実質的に責任を取っていません。
それを問わないまま「国民負担」にできるしくみを作ってしまえば、
「こんな大事故を起こしても、無罪放免だ。それなら安全性はそこそこに経済性を追求しよう」
というモラルハザードが原発業界に蔓延してしまいます。
それが、原発再稼働、再度の原発事故につながり、同じ事が繰り返される恐れがあります。
福島第一原発事故を収束させるのに国民負担はやむを得ないとしてもまず、
東京電力を法的整理して資産を売却し、その分国民負担を軽減すべきです。
電力システム改革の趣旨は「発電」「送配電」「小売」を分離して自由・公平な競争を促進することであり、
事故処理・賠償費用や廃炉費用を「託送料金で負担」は、将来にも禍根を残してしまいます。

◆パブコメのポイント:もう少し詳しく見たい方はこちら!
(ページ数は、「中間とりまとめ」のページ数です)
1.<全体>福島第一原発事故について、東京電力(経営者、株主、債権者)の責任が問われないまま
「国民負担」の方法が議論されていることは、本末転倒です。
また、経済産業省令だけで決めるのではなく、国会で議論すべき問題です。
2.<全体>福島第一原発事故の事故処理・賠償費用21.5兆円の問題と「切り離されて」、
負担方法だけが論じられています。
3.<18ページ>「事故に備えて積み立てておくべきだった過去分」という考え方は非合理であり、
常識的には考えられません。
4.<20ページ>(東京電力が責任を取った上でさらに不足する賠償・事故処理費用について)
原子力の発電事業者が負担するのが原則であり、「託送料金」での回収は原則に反しています。
発電コストとして回収すべきです。
5.<20ページ>廃炉・賠償費用を含めてもなお、原発が低コストであるならば、当然事業者負担とすべきです。
6.<22ページ>福島第一原発事故の事故処理費用について、「送配電部門の合理化分(利益)」が
出た場合には、託送料金を値下げすべきであり、廃炉費用に充てることは電力システム改革の趣旨に反し不適当です。
7.<23ページ>通常炉の廃炉についても、廃炉は事業者責任で行うのが原則です。

◆参考資料:さらに詳しく見たい方はこちら!
・竹村英明さんブログ記事
原発維持温存のため、東電救済を全国民に押し付ける政府
http://blog.goo.ne.jp/h-take888/e/d0e98d10af87cf7ecde40e8c21af6f62

 

冬季休業のお知らせ 12月23日~1月9日は閉室です。

ハカルワカル広場は12月23日(金)~1月9日(月)まで冬季休業のため閉室とさせていただきます。1月のお茶会も1月14日(土)となります。

この一年大変ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。

ハカルワカル広場

ハカってワカった話19号 ゼオライトの測定結果を見る

ゼオライトの測定結果を見る

二宮 志郎

微量放射能漏れ監視プロジェクト、協力者のみなさんのおかげで徐々にデータが蓄積しつつあります。特に継続して定期的に測定してくださっている方のデータは大変貴重です。

継続した測定データがある測定点を選んでグラフにしてみました。選んだ測定点は、元本郷A、町田市A、川口町B、御前崎市Bの4点です。測定年月を横軸に、ゼオライトを測定して検出されたセシウム137のBq/kgを縦軸に取っています。

グラフを見れば月日の経過とともにセシウムが蓄積していっていることがわかります。これは、空から降ってきているセシウムの蓄積分です。御前崎を除いては近辺の土壌から再浮遊・再降下の現象が起こっているせいによるものと思われます。

元本郷がひときわ高い数値になっています。たまたまこの測定点がセシウムを濃縮しやすい状況にある可能性もあるので、この結果だけから元本郷という地域に結びつけて考えることはできません。

元本郷、町田のデータを見ると梅雨から夏にかけて雨が多い時期に蓄積が激しいように見られますが、川口町のデータでは冬期も夏と同じペースで蓄積が進んでいます。季節による傾向をはっきり結論づけるにはもう少しデータが必要になります。半年に一回程度の測定ではこのような解析ができません。2ヶ月毎程度の頻度での測定継続を切にお願いしておきます。

御前崎、気になる廃炉作業との関係

御前崎の測定点は浜岡原発にかなり近いところになります。福島の影響は小さい地域なので、セシウムの検出はないか極微量であろうと予想していて、最初の数カ月はそのとおりの結果でした。ところが2016年6月測定ではっきりわかるレベルでセシウムが検出されて少し驚きました。

中部電力のホームページには「放射線管理区域内解体撤去が2016年2月15日に着手」とあり、何か解体作業とともに飛んでいるのではないかという懸念が持たれます。電力会社にもしっかりこういう調査をして欲しいですが、彼らに都合の悪い結果が公開されることは期待薄ですね。

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広場だより19号 巻頭寄稿文 福島原発事故による水産物の放射能汚染について

福島原発事故による水産物の放射能汚染について

相澤 武子

 2016年7月のお茶会で「水産物の放射能汚染について」の題で発表の機会をいただきました。2011年3月の原発事故でどれだけ海は川は汚染されたのか?そしてそこに生息する生物の汚染の実態はどうなのか?出回っている魚は、貝類は、海藻は食べても大丈夫なのか?そのような疑問・不安は当然のことです。

さて海水や海底土の放射能汚染データは、どこが持っていると思いますか?水産庁?それとも環境庁?いいえ、じつは海上保安庁です。それも福島原発事故が起こる以前からずっと測定し続けているのです。平成27年の海上保安庁のデータから、海水、海底土の汚染状況をみてみましょう。
下図は日本近海(複数地点の平均)海水中、海底土中のセシウム137の経年変化です。海水中のセシウムは2012年以後減少していますが、海底土中のセシウムは高いままです。

縦軸は対数軸目盛、下から0.1—1.0-10-100-1000-10000となるので、見方に注意してください。
福島第一原発事故により、大量の放射性セシウムが3.5ペタ(ペタ=千兆)Bq、直接海に流入しました。
その他に大気中へ放出され、海に降下した分もあります。

大気中から降下した放射性物質や海中に放出された汚染水により海水中の放射性物質濃度は高くなるが、大量の海水により拡散・希釈されながら、水中に浮遊する懸濁物質に吸着されたり、生物に取り込まれてその排泄物や死骸として、やがて海底に堆積していきます。

水産生物はセシウムを他の塩類と区別せず体内に取り込みますが、尿などにより自然に体外に排出します。海水魚では塩類は排出されやすく、淡水魚では逆に排出されにくくなります(浸透圧の関係による)。海水魚も、回遊魚か否か、表層魚か底魚かなど生息の仕方や、何を餌にしているか、食物連鎖の位置によって汚染の状況は変わってくると考えられます。

平成27年に出された水産庁の報告書によると、事故直後は表層魚であるイカナゴやカタクチイワシに高濃度の汚染が見られたが、その後低下しています。ヒラメ、マダラ、アイナメなどの底魚はその後も高濃度汚染が報告され、福島沖合のマダラは平成26年にようやく出荷制限が解除されました。

この報告書にはいくつかの調査研究結果も掲載されています。事故以前に誕生した個体が高濃度汚染されており、事故後に生まれた個体の汚染度は小さいことから、事故以前に生まれた個体が次々と寿命を迎え、事故後産まればかりになったら、高濃度汚染個体は減少すると考えられると報告しています。これからの多年にわたる調査が、この推論が正しいかどうかを証明することになるでしょう。

海水魚の汚染の解明については、今までにまとまった研究がなく、ある意味ではこの福島原発事故により、一歩前に進んだかたちになったといえます。喜んでいいのか悲しんでいいのか…。

淡水魚では、前述したようにセシウムが排出されにくいので、海水魚とはまた違った問題があると考えられます。また川は山や森から汚染された土や植物などが流れ込み、沼や池は閉じられて、水の循環が悪くなる分、汚染物質が溜まりやすくなります。このような様々な条件があるので海の水産物とは分けて考察する必要があるでしょう。

さて、淡水魚の汚染については、日本では今までほとんどデータがありませんでしたが、ヨーロッパでは、チェルノブイリの事故後に継続的研究がなされていました。

下図はフィンランドでの継続的定点調査の図です。(「淡水魚の放射能」水口憲哉 2012 P29)

小さな森の湖で魚類のセシウム値を継続的に調査したグラフです。注目すべきはチェルノブイリ事故10年後までは減少しているが、15年後、20年後の値は10年後の値とほとんど変わっていないことです。日本でもこのような継続的調査がなされるべきでしょう。

ウクライナやベラルーシ、ロシアではチェルノブイリ後の淡水魚などの変化について厳しい報告がなされています。淡水魚の核の解体、細胞膜の厚化、卵母細胞の発生異常、精巣の破壊的変化、異常精子、通常無性生殖をおこなうイトミミズで20%が性細胞を持っていた、など生殖に関する点で多種多様な異常が見られました。(「淡水魚の放射能」水口憲哉 2012 P21参照)

2012年1月から7月まで霞ヶ浦に生息する魚類等のセシウム計測値を調べた結果、食物連鎖の上位に位置する生物ほど、高濃度に汚染されていることがわかりました。現在の霞ヶ浦(西浦)では食物連鎖の最上位は、外来魚のアメリカナマズであり175Bq/㎏、その下にウナギ127、ギンブナ138、ゲンゴロウブナ91、コイ41、エビ54、ワカサギ38、シラウオ37と続いています。

ハカルワカル広場でも水産物を測定しています。
測定依頼では、水産物の検体はあまりないのですが、それでも測定数104あり、そのうちセシウム検出は3件でした。

検 体 Cs137 Cs134
2012年 ヤリイカ(茨城産) 4.8±2.4 <3.4
2014年 ワカサギ(茨城産) 21.0±5.8 14.8±4.4
2014年 イワナ(群馬水上) 14.6±7.2 12.6±5.7

先日、べぐれでねが(秋田放射能測定室)によるアオザメの測定報告が話題になりました。アオザメ(沼津産)を乾燥させた後、ゲルマニウム半導体測定器で測定。その結果乾燥させた状態で3200Bq、濃縮前換算値(乾燥させる前の状態に戻したと仮定した場合)でCs137+134で707Bqの高値(2016/6/10)を示しました。

アオザメは、体長3m前後・体重65~135kgの大型外洋性回遊魚で、マグロやカツオ、イカなどを餌としています。食物連鎖の上では上位にいる生物ですが、回遊魚ではここまで高値の報告は他に出ていないので、今後のデータを待ちたいところです。

水産物の汚染について調べていて、一つのブログに出会いました。「フライの雑誌社ブログ あさ川日記」です。このコラムには事故後に国や自治体で調査されたほぼすべての淡水魚の測定結果が載っています(「淡水魚の放射能汚染まとめ」初回エントリ2012/2/26 )。測定結果を羅列しながら、川を愛し魚を愛し釣りを愛する想いが綴られています。ぜひ一度読んでみてください。以下はそのなかの文章です。

放射能は差別しない。しかもまだ出てる。

河川がいったん放射能汚染されたら、20年以上たっても魚の汚染は消えない。それはチェルノブイリ事故で明らかだ。かといって河川や山を除染するのは不可能だ。きわめて残念なことだけれど、福島第一原子力発電所の事故で放射能汚染された山や川、そしてそこに棲んでいる魚たちは、ぼくたちが生きている間はもとには戻らない。

だから、せめて、もうこれ以上の放射能汚染を引き起こすような原発はやめましょう、という結論になる。ごく単純な理屈だ。そもそも原発が出す核のゴミ捨て場さえ決まっていないのだ。「リリースなら釣らせてくれてもいいんじゃないか」とだけ喧伝しても汚染は消えない。こういうことになった根本要因を見つめなおさないと、本当に釣り場がなくなる。根っこを見つめてこなかったら、こうなった。私たちの代で日本の釣り場をなくしてしまっていいはずがない。(2016/09/25)

結局、放射能汚染の動きをどれだけ科学的に分析したり、予測しても、わからない点が多すぎる。しかもいったん起きた放射能汚染は人の手では消せない。核とも原発とも縁を切った方が人類は幸せになれます。(2016/05/29)

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ハカってワカった話18号 意外に高い岩手産原木椎茸、コシアブラは例外的に高い

意外に高い岩手産原木椎茸、コシアブラは例外的に高い

二宮 志郎

今回は少し早めの発行ということで、測定データが約2ヶ月半分しかありません。それでなくても測定検体が減っているのに期間まで短くなりましたから、件数はかなり少なく、表を埋めるために微量放射能漏れ監視プロジェクトのゼオライトの分も含めて検出したもの全てを載せています。

いつもこの表を眺めながら、「今回のハカってワカった話の話題は何にしようか」と考えるのですが、いよいよそこからネタが出にくくなってきました。測定結果と全然関係ない話を書くと「タイトルに偽りあり」ということになってしまうので、もう少し測定結果をネタにすることにしがみついていこうと思います。そうなると今回話題にできるのは、岩手産原木椎茸と、長野産コシアブラになります。

意外に高い、岩手産原木椎茸

岩手県奥州市産の原木しいたけでCs137が122Bq/kg出ています。とは言っても、これは検体重量が53gと非常に少量であるためかなり不正確な数字です。Cs134の方も検出されていますが、スペクトルではそれらしきものが見られないので誤検出扱いになっています。おそらくCs134もCs137の1/5程度は含まれているでしょう。

岩手県は福島からはかなり離れたところになるので、感覚的には東京あたりと同じだろうとなるのですが、その感覚からすると、いくら原木椎茸とはいえ120Bq/kgというのはかなり高い数値です。

しかし、汚染マップで奥州市の位置を確認すると少し納得です。奥州市の南に島のようになって汚染の高い地域があり、奥州市も周囲に比べてやや高めの地域に区分けされています。そういう地域の原木椎茸はまだ100Bq/kgを超えてくる状況だということですね。

(早川マップの一部を転載)

コシアブラは例外的に高い

長野県栄村産のコシアブラも、検体重量が149gと小さいので、Cs137が70Bq/kgという測定値はかなり不正確です。スペクトルではCs134のピークもしっかり見られるので、Cs134が検出できていませんが存在していることは間違いないです。

長野県栄村は八王子に比べても福島原発事故の影響が低いのではないかと思えるくらいの場所ですが、それでもCs137が70Bq/kgというのですから、やはりコシアブラ恐るべしです。私達も初めてコシアブラを測定した時はびっくり仰天だったのですが、その後いろいろ情報が入ってくる中で、「高くて当然」という感覚が身についてしまって、ちかごろはもう驚かなくなってしまいました。栃木県の道の駅で売られていたコシアブラが1600~2200Bq/kgの汚染を検出したというニュースも最近ありました。

とにかく、関東・東北あたりのコシアブラを食べる時はそれなりに覚悟の上で、ということですね。

椎茸にしてもコシアブラにしても、一回食べてしまったら「これは大変」というようなレベルの汚染ではありません。目に見えない形で放射能が蔓延する社会がじわじわ人類に影響をあたえているということでしょう。政治の世界は右にしても左にしても、それを是とするのか否とするのか、ちっとも真剣に考えてくれてないのが悲しい限りです。

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広場だより18号 巻頭寄稿文 2016年5月16日 ちくりん舎訪問記

2016年5月16日 ちくりん舎訪問記

石井 暁子

 5月16日に西田、槌谷、佐々木、石井の4名でちくりん舎を訪問してきました。対応して下さったのは、ちくりん舎の浜田和則さん、青木一政さん、中西四七生さん、濱田光一さん、女性スタッフの方でした。

八王子を車で出発し、1時間ほどで日の出町の目的地に到着。ちくりん舎に登ってゆく急な坂の入り口では、「風の塔」と呼ばれるナウシカに出てくるような大きな風車のモニュメントが迎えてくれます。そして、ぐんと急坂を登りきったところに竹林をバックに現れる山小屋風の建物がちくりん舎でした。緑の濃い森を見下ろす絶景に鶯の鳴き声が響き、なんとものどかな様子。到着するとすぐに青木さんが出迎えて下さいました。

まずは見学、ということで、測定室に2台あるゲルマニウム半導体測定器を見せていただき、設置したときのご苦労や、温湿度を低く保つための工夫、冷却用の窒素が漏れた場合に警報が鳴るように設置された酸素濃度計のことなど、詳しく説明していただきました。測定室のすぐ外に設置されたパソコンで、2台の測定器から送られてくる測定データが見られるようになっており、スペクトルの鮮明さに一同息を呑みました。

次に検体の準備室。居室とはビニールで仕切られた明るく清潔な作業場は、理科実験室(ラボ)のようでした。様々な経験から積み重ねられてきた工夫の数々。中でも、汚染濃度の高い検体が部屋に舞うのを防ぐため、掃除機を利用して手作りした排気装置付きドラフトチャンバーには、ハカルワカルメンバーから「これ欲しい!」の声も。高機能の測定器で、尿のような濃度の低いものから土などの高いものまで測るので、微量な汚染も防がなければいけないというところでの試行錯誤があったそうです。また、布団乾燥機をプラスチックのコンテナに繋いだ検体用の乾燥機も見せていただき、創意工夫に感心するばかりでした。

一通り見学も済み、交流会となりました。まずは、今回測定をお願いする「ふくしまの水」を渡し(※)、なぜ福島市の水道水をわざわざボトリングして売るのか、というところから、放射能安全神話、シーベルトのまやかし、土壌検査の必要性、リネン布を使って空気中の粉塵の放射性物質を捕まえる試み、尿検査の結果からわかってきたこと、放射能汚染の高い植物についての情報交換などへと話題は広がりました。

中でも興味深かったのは、気流の知識が豊富な中西さんたち(たまあじさいの会)の検証から、汚染物質は川下へ集まっていくだけではなく、森と街との寒暖差により霧が上流に押し戻され、上流にも汚染スポットができることを発見したというお話でした。このような興味深いお話をハカルワカルのお茶会でもぜひしていただきたいとお願いしてきました。

今回の訪問では、福島と宮城に太いパイプの繋がりを持ち、長年の知見と技術力を駆使して被災地を力強く支援するちくりん舎の姿に感銘を受けました(市民の力ってすごい!)。また、みなさんの知識の豊富さとわかり易い説明に感服するとともに、大変あたたかく、快い対応をしていただきましたことに感謝の気持ちでいっぱいになりました。

これを機に、さらに交流を深め連携していきたいと思います。ちくりん舎の皆様、ありがとうございました。

※「ふくしまの水」は福島市の水道水をペットボトルに詰めたもので、福島市で販売されています。後日ちくりん舎より送られてきた放射能測定結果報告書によるとCs134 不検出(検出限界値 0.031Bq/kg) Cs137 不検出(検出限界値 0.033Bq/kg)でした。

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ハカってワカった話17号 5年間、原木椎茸測定記録

5年間、原木椎茸測定記録

二宮 志郎

相模原市の方が5年間同じ場所で採取した原木生椎茸の測定を続けてくれています。その測定結果を測った年との相関で示したグラフが以下です。

年々減って来て、今年の測定では測定限界に近いところまで減ってきています。2014年の段階では、Cs137は半減期が長いので減ってくれないのか、と思われましたが、今年の測定値ではかなり減ってくれています。

椎茸栽培の原木は5年程度が寿命で、そのくらい経つと椎茸に栄養を吸い取られた原木はカスカスになってしまうということですから、セシウムのかなりの部分が椎茸に吸い取られてしまったということでしょう。

そうすると、「これから先は5年前の放射能が飛来してきた時からの原木で栽培された椎茸というのはどんどん減ってくるから、それほど椎茸のことを心配する必要もなくなるだろう」、とそう考えたいところです。新しい原木がきれいな原木であれば、それは間違いないことでしょう。

新しい原木はきれいなのだろうか?

そういう疑問が当然出てきます。
椎茸の原木に向いているのはクヌギ・ナラ類ということですが、これから原木として切り出されるこういう木は、おそらく樹齢10年程度かそれ以上でしょう。そうなると、やはりあの時に汚れた木ということになります。

そういうことをお茶会の時にいろいろ議論したりしていたら、ちょうどいいタイミングで、昨年「核分裂過程」の上映会でお世話になった飯能の小林大木企画の方々から柿の木の表皮を剥ぎとったという検体の測定依頼がありました。

その測定結果が Cs137:156Bq/kg, Cs134:44Bq/kg

合わせて200Bq/kgです。もしこの木で椎茸を育てたらかなり高濃度に汚染された椎茸になるでしょう。柿の木で椎茸栽培というのはあまり聞きませんが、調べてみたらエノキ茸の栽培には適しているということです。

柿の木の表皮がこの程度汚染されているのであれば、クヌギの表皮も似た感じなのではないでしょうか。いずれにしても、「椎茸はもう安心」と言うのはちょっとまだ早すぎるようです。

そもそも「木を汚す」ということが問題なわけで、汚してしまったことを反省して「二度と汚さないようにしよう」と考えて行動することこそが、何よりも重要ですね。

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広場だより17号 巻頭寄稿文 「福島原発事故の実相について」

ハカルワカル広場お茶会特別企画 「福島原発事故の実相について」講演会

講師 佐藤和良氏

5月7日(土)1時より、アミダステーションにて、福島県いわき市の前市議・佐藤和良氏をお招きし、「福島原発事故の実相」について講演をいただきました。講演の要旨は次の通りです(特に印象深かった点をまとめました)。参加者は65名(スタッフ10名を含む)の盛況。現地の生の声を届けてくださった講師の佐藤和良様と仲介の労をとられた小金井市議・片山薫様に感謝いたします。講演後、手挽きのコーヒーとお菓子をいただきながらの交流会も活発に意見が出され、大変好評でした。

*日本中どこでも地震と原発事故は起こりうる    明日は我が身

福島原発事故は他人事ではなく、日本列島の活断層が活動期に入っている今、地震は日本のどこにも起こりうる。そこに原発があるのだから、原発事故も起こりうる。特に、熊本大地震は中央構造線に沿って起きており、伊予灘を超えると伊方原発があり、西の先端に川内原発がある。非常に危険である。歴史的にみると平安時代の貞観地震や秀吉の時代の慶長地震などの歴史地震に学ばねばならない。

*福島原発事故の背景

私(佐藤)自身は事故の前から脱原発ネットワークに参加していた。原発事故の直後、菅首相が「原子力緊急事態宣言」を出したとき、背筋が凍ったことを覚えている。メルトダウンが起こったと思った。そして、福島に残り、最後まで見届けようと覚悟した。原発の背景には貧困と差別がある。原発立地の浜通りは、「東北のチベット」と呼ばれていた。その地域が原発立地として選ばれた。原発が来れば冬場の出稼ぎはなくなると言われた。「安全神話」がそれを後押しした。命よりカネの論理が働いた。

*事故から6年目の現状

事故原因の真相は今も解明されていない。今も原子力緊急事態宣言は解除されていない。事故は収束していない。毎日、1368万ベクレルの放射性物質が大気中に放出され、アルプスという多核種除去設備でとりきれないトリチウムなどは海に放出されている。原発労働者の被ばくも深刻な問題である。

*放射能安全神話により、帰還を強いられる被害者

「原発安全神話」は「放射能安全神話」に変わり、年間20m㏜までは安全だとし、福島への帰還が強いられている(他の国民の被ばく許容量は年間1m㏜なのに、福島県民だけが20m㏜を強いられるのは憲法違反ではないか?)。2017年3月で住宅無償提供の打ち切りと、避難区域指定の解除が行われる。棄民政策である。国は、東京五輪までにと復興を急ぎ、福島原発事故はなかったことにしようとしている。福島原発事故は全国で「風化」し、加害者は「居直り」、被害者は「疲弊」している。故郷を追われた避難者は10万人、汚染地で暮らす福島県民は190万人にのぼる。また、甲状腺がんの多発、急性心筋梗塞による死亡率は全国一位である。健康被害の広がりはこれからであろう。

*声を上げ続ける被害者たちの闘い

これだけの事故を起こしながら、誰も責任をとっていない事実に、福島原発事故の刑事責任をただす福島原発告訴団の発足があった(2012年3月)。2013年3月不起訴となったが、検察審査会が二度の起訴議決をし、16年2月強制起訴へ持ち込んだ。同時に全国で東電への損害賠償請求訴訟が起こされた。この訴訟団やADRの申立団、告訴団などを結び、原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)が設立された。1.被害者への謝罪 2.被害の完全賠償、暮らしと生業の回復 3.被害者の詳細な健康診断と医療保障、被ばく低減策の実施 4.事故の責任追及 を目標としている。

*結び    これからの課題

これからはカネより命の時代、廃炉の時代になると思う。内部被ばくを低減するために市民放射能測定室活動が行われている(いわき市の「たらちね」など)。食品・全身測定と甲状腺検査の継続、検診センターの開設準備も進んでいる。原発事故被害者を救済する全国運動(100万人国会請願署名を秋の国会へ)もおこなっている。原発事故被曝者援護法の制定−−被曝者健康手帳の交付、健康診断・健康被害の予防・治療を国の責任で行うことを求めていく。中長期的目標の脱原発ではなく、即時・無条件の原発停止と廃止が必要である。

大地動乱の時代である現在、原発は今、そこにある危機である。エネルギー問題ではなく命の問題である。そして、このような問題を解決するには、原発推進が国策として行われている以上、政権を変えるほかはない。7月10日の選挙が大切だと思っている。(西田)

~福島の声を聞いて~

 佐藤和良氏の講演で最も心に響いたのは、東京に住む私たちも、単なる支援者ではなく当事者なのだということでした。熊本の大地震は、日本中どこでも、地震と、ひいては原発事故が起こりうることを実感させました。福島の被災者の方たちの苦しみを、他人事ではなく明日は我が身の問題として感じないわけにはいきません。

 私たちにできることは何なのか。今回のように現地の方たちの声を直接聞く機会を設け、交流を深めていくこと、そして、現地の実情を理解することが大切だと思います。具体的には、原発事故被災者を救援する全国運動の署名活動支援や、検診センター設立などへの協力、福島の土壌測定への協力など、福島の方との交流を通してやるべきことが見えてくると思いました。(西田)

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