ハカってワカった話13号 「キルティ ングジャケット表布」の測定結果

「キルティ ングジャケット表布」の測定結果

二宮 志郎

このページを読む前に、「維持会員の声」のページの日下さんの投稿を読んでください。今回はこの綿ジャケットに焦点を当てたいと思います。


維持会員の声

維持会員 日下 正彦

私の実家は岩手県奥州市にあります。美しい山脈に囲まれ、自然の恵み豊かな故郷でしたが、東京電力福島第一原発の事故以来、『岩手のホットスポット』と呼ばれるようになりました。汚染されてしまったふる里への無念と哀しみは筆舌に尽くし難く、各種データの現実を認識しても尚、変わらずに映る風景を前に、まさか、この美しい故郷が…と相反する心情が混在することも事実です。汚染された地域住民同士のわだかまりや『風評被害』と云う認識の相違も、単にお金や情報の問題だけではなく、厳しい現実とふる里、生業を愛する心の葛藤から生じているのかも知れません。人間そんなに強いものではありませんもの・・・。

―ありのままの事実を認め現実として受け入れる― 私にとってハカルワカル広場はそんな自分の曖昧さに課す修行の場のようにも思われます。

先日、綿ジャケットを測定して頂きました。震災前に購入し、屋外作業用にしていた服で、妻から相当被曝している筈だからもう捨てよう!と何度も言われていました。洗濯もしていたし、それ程でもなかろうと高を括っていたのですが、この冬、妻の更なる説得があり、どうせゴミに出すのなら切り刻んで計測してもらうのも良いかもしれないと、軽い気持ちで持ち込んだものです。結果はCs 合算で620Bq。ショックで言葉を失いました。私の中の『安全神話』に気づかされた瞬間でした。

『安全神話』は決して事故以前の化石ではありません。原子力ムラの人達は虚言が暴露した後も、新しい安全を説く『神話』を編纂し、私達にさらなる危険を押し付けようとしています。許容値だと云い海、空かまわず放射能を垂れ流し、食循環を危うくし、風下の街には子供を縛り付けるための学園を新設。そして根拠のない世界一の原発規制基準を流布し、粛々と再稼働や新設、輸出に邁進しています。とても許し難い事です。しかし忘れてはいけません。実は私達の心にも『安全神話』が鳴りを潜めている事を。雨風が強い日でもマスク姿が少なくなりました。スーパーでは食品表示を気にする人が少なくなってきた様に思えます。

「もう歳だから…」「お金がかかるから…」そんな心の隙間にこっそりと『安全神話』の悪魔は巣を構えるのです。敵は自分自身の中にも潜んでいたのです。

残念ですが汚染されてしまったこの土地が元に戻ることはもう無いでしょう。そして、その現実を把握しても尚、心身共に健全に暮らすための方法を模索するしかありません。あるエッセーにこんな言葉があります。

「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである。」
(吉田健一『長崎』より)

正直で美しい生活への執着を心がけたいものです。まずは、ハカルワカル道場に行き自分の足元をもう一度、見つめ直しませんか?お互いに…。ハカルワカル広場のスタッフの皆様、いつも被曝と隣り合わせの現場でご奉仕頂き、本当に感謝致しております。一人でも多く会員が増え、正しい意識が市民の日常に浸透する事を切に願います。

<維持会員の声>


測定結果のページの上から3番目「キルティングジャケット表布」の欄に測定結果があります。Cs137=470Bq/kg, Cs134=150Bq/kg で合算で620Bq/kg です。そのスペクトルを以下に示します。上のラインがジャケットのスペクトル、下のラインはバックグランドのスペクトルです。

綿ジャケットの表布にこれほど強くセシウムが残るというのは少し驚きです。スペクトルを見ると自然放射能成分が非常に小さいことに気が付きます。

ウラン系列、トリウム系列の自然放射能は、ラドンガスが表布に吸着されずに放出されてしまったせいで、ハカルワカルでは馴染みのビスマスや鉛が出てきていないのであろうと思われます。

一方カリウムの方は、洗濯とともに流れ去って表布に残留しなかったのでしょう。
セシウムの方は、洗濯しても離れないほど綿にしっかり吸着していたから、残留・蓄積を繰り返して620Bq/kg まで来てしまったのでしょう。

「セシウムは残留・蓄積を繰り返したが、自然放射能はしなかった」、スペクトルはそういう事実を示しています。そうか!と思って、去年測った予想外に高い汚染値が出たカーテン布のスペクトルを見直すと同じように自然放射能は低くセシウムだけ高いです。

放射能の話となると必ず自然放射能から始めて、「ほら、世の中はこんなにたくさんの自然放射能にあふれているのですよ」と教えてくれる人たちがいます。それはそのとおりです。しかし、このジャケットで起こったようなこともちゃんと説明して欲しいし、人間の体の中でジャケットの表布の様なことが起こらないことも説明してもらわないと困ります。

日下さんの投稿を読んで、一つ一つの測定には、単に結果の数字だけでは語りきれない、個々人の物語がその背後にあるのだということを痛感しました。「ハカってワカる」ということは、数値を越えて、その背後の物語まで含めて、その上で小さな理解を積み上げていく作業です。
「ハカってワカった話」などいうこの連載のタイトルは少しおこがましくて、本当は「ハカってワカりたい話」ということですね。

日下さんありがとうございました。測定された方の物語をまた聞かせていただければきっともっとたくさん「ワカる」ことができると思います。よろしくお願いします。

⇒ハカルワカル広場だよりの主要記事のインデックスは、ここにあります。

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