2025年3月2日講演会 「あなたは知っていますか? 311子ども甲状腺がん裁判を?」

20253月2日、標記のタイトルで、西念京祐弁護士による「311 子ども甲状腺がん裁判・講宴会演会」を北野市民 センターホールで開催しました。会は終始原告を思いやる気持ちに満ち、温かい雰囲気で、講演は大変わ かりやすかったと好評でした。本稿でその講演の要旨をお伝えします。
1) 映像の上映 講演に先立ち、OurPlanet-TV のご厚意により提供された映像を上映した。約 20 分の動画。はじめ に 2011 年 3 月 11 日の東日本大震災の様子が大写しにされる。それに続く福島原発事故。緊張した空 気の福島原発中央制御室の様子、「大事故になる!」との叫び声。続いて、放射能の環境中への大量放出 の新聞記事、そして甲状腺がんの手術のシーン、最後は若いがん患者(原告)のインタビュー映像に。 甲状腺がんの患者の若者が「がんを宣告された日、医者に即座に『福島原発事故と因果関係はない』と言 われ、違和感を覚えた」と話す。「大学入学後、体がむくみ、体調が悪くなり、のどに違和感を感じ受診した。 『気管に近いから転移したら体中にがんが広がる』とも言われた」、「がんになってよかったとは言わないが、 知らないことを知ったり、支援してもらったりしてよいこともあった」と自分を納得させるように、言葉を選 んで話す。葛藤している原告の様子がこの裁判の背景を物語っていた。
2) 西念京祐弁護士の講演
【この裁判の特異性】 「子どもががんになるという健康被害は福島原発事故による最もコアな被害に他ならないのではな いか?」 との指摘でこの講演は始まった。若くしてがん患者になることは、未来を奪われ、若い時から がん患者として生きていくことを余儀なくされる。それは最も深刻な原発事故被害ではないだろう か?と。しかも、この健康被害は始めから予見されていた。チェルノブイリ原発事故の後に、唯一、放射 線被ばくが原因だと認定されているのが小児甲状腺がんだ。それなのにこの病気の患者に何の救済制 度もないのである。原爆症認定訴訟や水俣病の国賠訴訟で争われているのは被害救済範囲の拡大で あり、被害そのものは認定されており、救済制度もある。しかし、311 子ども甲状腺がん裁判では、被害 そのものの認定を争っている。ここに、この裁判の特異性がある。
【県民健康調査により多数の小児甲状腺がんが検出された】 2011年10月、福島県は「県民健康調査」として18歳以下の県民38万人を対象に「甲状腺検査」を 始めた。その説明には「小児甲状腺がんは年間 100 万人あたり 1、2 名と極めて少なく、結節の大半は 良性のものです。」とあったが、1巡目で、悪性疑いが116人、2巡目で71人が検知された。現在までに 397人が発症している。 岡山大学津田敏秀教授の疫学的手法による分析では、福島県の甲状腺がんの発生状況は日本全国 の発生状況に比し、最も高いところで50倍、全体としても約30倍の多発が生じている。
【裁判への提訴】 2022年1月27日、この小児甲状腺がんの患者の中の若者6人が、東電を被告とし、補償を求めて 提訴した。裁判の目的はこの病気と原発事故の因果関係を明らかにし、賠償を求めることである。患者 たちはお互いに連絡を取ることもできず、また、裁判に訴えれば復興の機運をそぐとの圧迫的な雰囲 気の中で、病気を隠し、孤独を強いられる状況での提訴であった。弁護団は20人で取り組んでいる。
【裁判の争点】 原告側は「小児甲状腺がんは原発事故の放射能による被ばくが原因だ」とし、疫学的な知見を用い 主張している。例えば「原因確率」という考え方は曝露され疾病に罹患している集団の中で、曝露によ るものと推認できる増加分がどれくらいの割合を占めているかを示す指標である。 原告らの原因確率はいずれも 90%を大きく上回っており、極めて高い。過去の判例や学説に照らし ても、このように高い原因確率では因果関係は高度の蓋然性を持つと証明されている。 被告の東電側は 「100mSv を越える被ばくをしなければ甲状腺がんにならない。しかるに、原告ら の甲状腺被ばく量は10mSv 以下であるから、原告らの甲状腺がんは被ばくによるものではなく過剰 診断による 『潜在がん』 である」と主張。そして、UNSCEAR(国連放射線影響科学委員会)が 「福島 の甲状腺がんの大幅の増加は超高感度の検出手段によるもの」 としたことをお墨付きとしている。 しかし、この機器による甲状腺がん検出論は長崎大の柴田義貞教授の論文により否定されている。 被ばく群(チェルノブイリ事故前に生まれた子どもたち)には甲状腺がんが9720人中 31 人発症し、非 被ばく群(事故後に生まれた子どもたち)の 9472 人中、甲状腺がんの発症はゼロであったことから、 決着はついている
【最後に~わたしたちにできることは?~】 もともと予見されていた小児甲状腺がんという健康被害に対し、なぜ何の救済措置もないのか? なぜ被害そのものの認定を裁判で争わなくてはいけないのか? 原発事故から 14 年が過ぎても甲状腺 がんになった際の補償さえないのに、原発再稼働、新増設まで目指すなどというのはあまりに理不尽 ではないだろうか? 私たちが最も守るべきものを守るため、また原発事故による健康被害をなかったことにさせないた めにも、311子ども甲状腺がん裁判の傍聴に行き、事実を知り、裁判を支援してください。
次回期日: 6 月 25 日 14:00〜 東京地裁 裁判詳細やご支援方法については、「311甲状腺がん子ども支援ネットワーク HP」をご覧ください。
https://www.311support.net
ハカルワカル広場の原告支援カンパに協力することも原告の励みになりますので、ご協力をよろしくお 願いいたします。
原告支援金は次の口座へ。
*銀行名:みずほ銀行八王子支店 *口座番号: 3160609 *口座名:八王子市民放射能測定室 311 子ども甲状腺がん裁判原告支援金
【3月2日講演会 参加者の感想 】
* 難しいと思っていたことが、とても分かりやすかった。この裁判が大きく報道され、きちんと補償され、せ めて金銭面で安心できる暮らしができるように強く望みます。ハカルワカル、西田さんの熱い思いも伝わ ってきました。
* メディアでは報道されないことなのでとても勉強になりました。内容が分かりやすかったです。私の子ど もたちがちょうど原告の皆さんと同じ年齢であり、被ばくをしたかもしれない若者です。 最後の、原告で ある若者の言葉が胸にささりました。一人一人の若者の命と人生に私達はしっかりと向かい合っていかな ければならないと改めて思いました。微力ですが私自身これからも考えて行動したいと思います。
* とてもわかり易かったです。こんなに明らかな事が裁判せざるを得ない現状に怒りを覚えます。裁判当日 是非行きたいと思います。 * 東電が主張している過剰診断ということはもう成り立たないと思うのですが、どうしてきっぱり否定され ないのか、不思議に思いました。 傍聴に行ってみたいと思いました。
* 映像も胸に迫りました。最も立証しやすい被害であるのにという点についてよく理解できました。マスコ ミは東電と政府の意向を汲んで、報道していない。しかし政治的対立より、個人(子ども)の立ち位置でしっ かりと補償することは国民全体に関わることであると思いました。早急な政府の支援を決めてもらいたい と思います。
* ともすれば忘れがち、または避けられがちになってしまっている現在も定期的にこのようなイベントをさ れていること、また参加される方も少なからず見られることに心強く感じております。
* 現在も測定、デモなど地道な活動に頭が下がります。私も老骨に鞭打って活動を続けたいと思います。
* とても詳しい資料をもとにした講演でよく分かりました。原因確率のこともよく分かりました。このよう な被害を認めず、更に原発を推し進めようとする事が許せないですね。
西念京祐弁護士プロフィール : 梅田新道法律事務所所属。1975 年生まれ、石川 県金沢市出身。薬害肝炎弁護団、ノーモア・ミナマタ弁護団等の公害、薬害事件の弁 護団で活動してきた。2022年4月、311 子ども甲状腺がん裁判弁護団に加入。同 弁護団では主に、疫学や低線量被ばくによる健康影響等の知見を担当している
報告 西田照子
2024年5月11日お茶会
「311子ども甲状腺がん裁判の報告会に参加して」
2024年5月11日のお茶会「311子ども甲状腺がん裁判の報告会に参加して」は、甲状腺被ばく/甲状腺がんの実態を明らかにする企画でした。このたびホームページに「特集 甲状腺被ばく/甲状腺がん」の特集ページを作り裁判の争点を明らかにしました。
「311子ども甲状腺がん裁判裁判の報告会」に参加して、これは福島原発事故の最も悲惨な被害だと思いました。子どもの健康を蝕むこと、がんにする事故! そして事故をひき起こした東電は、「事故による一切の健康被害はない」。福島県の医者たちも「甲状腺がんの多発を過剰診断」として、事故が原因とは認めません。
病気と闘い、病気による一切の不利益を引き受けながら、原因を作った企業、県、国が一切責任を認めない、それがこの裁判の本質です。
水俣病と同質の公害裁判と思います。メディアが報道しないために、非常に社会的認知度が低いです。このことを広く知らせていくことがハカルワカルの活動の重要な一つになってほしいと「特集 甲状腺被ばく/甲状腺がん」の特集記事を企画しました。
目次
1)東電の主張「福島原発事故で一切の健康被害はない」に対する原告(小児甲状腺がん患者)の反論
2)甲状腺がん裁判の記事など
3)311子ども甲状腺がん裁判支援ネットワーク
4)過去のハカルワカル広場ホームページの安定ヨウ素剤配布や甲状腺がんに関する投稿
1)東電の主張「福島原発事故で一切の健康被害はない」に対する
原告(小児甲状腺がん患者)の反論
- 東電の主張:100ミリシーベルト以下では小児甲状腺がんは発症しない。
原告側の反論:これは、現在の世界的常識に反する。チェルノブイリ事故でも100mSv以下で半数以上が発症したというウクライナのトロンコ教授の論文もある。また、ある値以下(ここでは100mSv)ならがんを発症しないという閾値はないということをICRPも認めている。LNT(Linear Non-Threshold)しきい値なし直線モデル仮説である。(下記参照)

- 東電の主張:ヨウ素131の放出量はチェルノブイリ事故の14分の1である。
原告側反論:この主張はUNSCEARの推定量に基づいている。事故直後の福島県の小学校の土壌測定(実測値)によれば、チェルノブイリ事故の時のゴメリー地区などと同等のヨウ素131の降下量(汚染)である。(下記参照)

- 東電の主張:原告らは甲状腺に有意な被ばくを受けていない(1080人の甲状腺検査を事故直後にした結果を示して)
原告側反論:検査がずさんであり、検査対象が少なすぎる(わずか1080人)。スクリーニングレベルを 0.2μ㏜としたが、それは高すぎる数値でその数値以上の被験者はいないので被ばくはしていないと結論づけたが、実情に近いのはむしろ、0.066~0.1μSvであると原告側は主張。
- 東電の主張:ホールボディカウンターで、内部被ばくは預託実効線量 1mSv以下が99.9%だったと主張。
原告側反論:バックグラウンドを着衣の数値としたため、測定値からバックグランド値を引くとゼロやマイナスとなり、ずさんな検査であった。またこの検査は2011年6月以降に実姉されたため、ヨウ素13ほとんど消えていた。
- 東電の主張:チェルノブイリでは5年後から甲状腺がんが発症したのに、福島では検査を始めた直後(2011年10⽉)から発症している。
原告側反論:これは5年後に笹川財団が高性能の検査機器を多数寄付したため、たくさんの甲状腺がんを検出した。
- 東電の主張:チェルノブイリでは5歳以下でも甲状腺がんは発症したのに福島では発症していない。
原告側反論:チェルノブイリでは乳幼児が近隣の牧場の牛乳を飲む習慣があったため。日本ではそのような習慣はなく、乳児用粉ミルクである。
- 東電の主張:子ども甲状腺がんは、通常100万人に1~2人の発症率だが、福島事故後の38万人の中に370人の甲状腺がんの発症に対して、「過剰診断」と主張。
原告側反論:少なくとも原告たちは甲状腺の手術を受けており、受けなければ命の危険があった。また、多くの甲状腺がんを手術をした鈴木真一医師は過剰診断ではないと言っている。
- 東電の主張:UNSCEAR(国連科学委員会)の報告に東電は頼り、その権威を後ろ盾にして主張。
原告側反論:そもそもUNSCEARは核兵器、原発の推進機関である。核保有国が資金を出している。2020年、2021年報告も日本が資金を拠出。信頼性は低い。
2)甲状腺がん裁判の記事など(引用)
引用したホームページのサイト名、著者名、掲載日時、URLは下記を参照ください。
1.「10年、誰にも言えなかった」 原発事故後に甲状腺がんに 10代で発症した6人、東電提訴
2022年1月27日 東京新聞
https://www.tokyo-np.co.jp/article/156781
2.「原発事故で甲状腺がんに」6人が訴えた裁判始まる 東電は争う姿勢
2022年5月26日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASQ5V644BQ5VUTIL03H.html
3.福島県民が環境保健部長の退任要求〜福島県・検討委員会
小児甲状腺がん2024/05/07 – 15:19 OurPlanet-tv
https://www.ourplanet-tv.org/48625/
3)311子ども甲状腺がん裁判支援ネットワーク
https://www.311support.net/
311子ども甲状腺がん裁判支援ネットワークのNews Vol9.pdfを添付します。
第9回口頭弁論期日のご報告
上記甲状腺がん裁判NEWSに掲載されています。
3年目に入った裁判 3月6日に行われた第9回口頭弁論期日における原告側の主張立証は、被告東京電力の「100mSvしきい値論」に対する反論が中心テーマでした。被告は、「100mSv以下の被ばくではがんの増加は確認されないというのが「国際的合意」である」と主張しますが、私たちは、そのような「国際的合意」はそもそも存在しないこと、最近の多数の疫学研究において、100mSv以下の低線量被ばくでも線量に応じた発がんのリスクがあることが確認されていること等を詳細に主張、立証しました。この問題は、これでほぼ決着がついたと考えています。(弁護団長 井戸謙一)
4)過去のハカルワカル広場ホームページの安定ヨウ素剤配布や甲状腺がんに関する投稿は下記です。
1. 2024年 5月11日お茶会「311子ども甲状腺がん裁判の報告会に参加して」のご案内
https://hachisoku.org/blog/?p=12423
2. 311こども甲状腺がん裁判の原告支援のカンパをお願いします。
重要なお知らせ!ハカルワカル広場の311子ども甲状腺がん原告支援の振込口座が変更になりました!
【新口座】*銀行名:みずほ銀行八王子支店(店番号260)*口座番号:3160609 *口座名:八王子市民放射能測定室 311子ども甲状腺がん裁判原告支援金
3. 2023年 甲状腺エコー検査とヨウ素剤配布のお知らせ タワーホール船堀
https://hachisoku.org/blog/?p=11121
4. 2019年 「安定ヨウ素剤を全市民へ配布してください」の請願を八王子市へ出しました。
https://hachisoku.org/blog/?p=5941
5. 2018年 ハカルワカル広場 安定ヨウ素剤配布会のご案内 11月10日(土)
https://hachisoku.org/blog/?p=5560
6. 2018年 安定ヨウ素剤自主配布プロジェクト in tokyo
https://hachisoku.org/blog/?p=4319