「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」に参加して

八王子平和・原爆資料館共同代表 上田紘治

はじめに

昨年5月8日から8月21日までの106日間「ピースボートおりづるプロジェクト」に参加しました。主な役目は、寄港地で各国の政府機関に働きかけ核兵器禁止条約に署名、批准を要請し、2020年までに世界で数億集め、国連に提出する「ヒバクシャ国際署名」の協力を得ることです。11年目の「おりづるプロジェクト」今回の参加者は3歳被爆の私、1歳被爆の長崎女性、広島被爆2世の男性3名で、原爆の記憶のない世代です。

一昨年の7月7日、国連で122ヵ国の多数で核兵器禁止条約が採択され、10月ICANのノーベル平和賞受賞は、今回のプロジェクトの大きな後押しでした。それは、ギリシャではチプロス首相やアイスランド、パナマでは外務大臣、フランスやデンマークでは国会議員、シンガポール・コロンボでは政府高官などの方と面談、民間外交では考えられない方たちに直接、訴え要請できたことです。

船は22ヵ国25ヵ所寄港し、「証言」は15ヵ国18都市、船内でもカナダ・ハリファックスで議員・ジャーナリストの方たち、又、国連で決めた持続可能な開発目標(SDGs)のメンバーや各国から集まったオーシャンユースなどの方たちとも交流をしました。

アジア、ヨーロッパ、北欧

対応する政府高官は個人的には平和への思いは一致しますが、国としての対応は異なりました。NATO(北大西洋条約機構)やNPT(核不拡散条約)、対米、対日を意識し、ハードルは高く感じました。改めて軍事同盟の役割は何かを考えさせられました。

スウェーデン・ストックホルムでIPPNW(核戦争防止国際医師会議)の方は「9条は大丈夫か」と質問。スウェーデンは1998年に誕生した「新アジェンダ連合」に加盟し、ノルウェーやフィンランドなどと積極的に平和活動をしていましたが、政権が交代し脱会しています。復帰の可能性は限りなく「NO」とのこと、アフリカやシリアなどから増え続ける移民や難民問題が大きな社会問題となり、国民の意識が保守的になっているように感じられました。

イタリアは核兵器禁止条約を全国の各自治体が国に対して「批准せよ」と決議を上げる運動をし、教会の施設に200名くらい集まった皆さんの前で被爆体験を話しました。

イタリア 州都カリアリにて被爆体験を話す
上田さん(中央)

リスボンから3泊4日ほど船を離れ、フランス・パリでは平和市長会議の方や、3つの政党会派の上院議員と懇談や記者会見しましたが、面談後、国会図書館に案内され、ナポレオンのイニシャルが入った椅子、フランス最初の憲法などが豪華で贅沢な内装を施された室内に、膨大な量の図書と共に展示、保管されていました。 デンマーク・コペンハーゲンでは外交委員会の国会議員の方たちに「証言」と交流、同席した野党で緑の党の方は私たちの意向に沿った発言でした。

ハリファックス、NY、シアトル

カナダ・ハリファックスでは船内に議員やジャーナリスト、外務省の事務官などの方たちを招いて「証言」と交流を実施しました。

NYでは国連に出向きメキシコとオーストリア国連大使と面談、両国は核兵器禁止条約の採択に向けて重要な役割を果たした国です。

シアトルではどこまでもの荒野を、猛スピードで3時間かけて駆け抜け、戦時中プルトニウムを製造し(これが長崎に投下された)、今は博物館になっているハンフォード原子炉を見学し職員の方と交流しました。被爆者の訪問に不安があったそうですが、理解し合ったことに安堵したとの発言がありました。

ハンフォード原子炉から約30㎞風下の被曝者の男性との交流では、731部隊の石井四朗が来たこと、クリントン大統領時代、ご自身も含め付近の住民から発病や奇形児が生まれ、被曝被害を償えと体制側からの嫌がらせを跳ね除け、一人、法廷で勝訴、1000ドルの補償を得た。しかし、それ以外何もないと話されました。広大な土地入植の条件は、第2次世界大戦で活躍した若い兵士夫婦で、幼子がいる家庭です。国は被曝することを見通して、住まわせたと思わざるを得ません。全米で数百万人の被曝者がいると話されました。

キューバ、パナマ、コスタリカなどの中南米

中南米各国は私たちの思いと全く一致し、政府関係者、大学や市民団体、自治組織など各地で大歓迎でした。国営・民間TVや新聞社、ラジオなどの取材も沢山受けました。

チェ・ゲバラとカストロがアメリカの不当な干渉から、革命を成功に導いた国キューバ、核兵器禁止条約をまとめたホワイト議長で軍隊のない国コスタリカ、核兵器のない世界を主張し続けるメキシコ、コーヒーが世界で一番おいしいと主張するコロンビア、大西洋と太平洋で海面差27m、運河の収益が国益の大半、核兵器禁止条約の批准を言明したパナマ・・自らの力で独立を勝ち取った国々は魅力一杯です。女性の活躍も共通で、コスタリカでは議員の40%以上が女性と法で定め、男社会日本との落差を実感です。

貴重な体験を今後に生かす

ヨーロッパで先進国と言われる国々は、核兵器禁止条約の批准には消極的で中南米は積極的です。真の先進国とは経済面と平和問題がそろってこそと感じました。

核兵器禁止条約署名国は現在、70ヵ国、23ヵ国が批准です(2019年4月11日、新たにパナマが批准)。50ヵ国が批准すれば90日後、国際法として効力を発揮します。いよいよ、核兵器は「悪魔」のレッテルを貼られる時代、人類史でも画期的な局面に生きていると思っています。

船には船長と400名のスタッフに国内外から約1000名の乗客。「ヒバクシャ国際署名」を700筆近く船内で集めました。

憲法9条を持つ戦争被爆国日本に、核兵器禁止条約に積極的に取り組む政府を一日でも早く実現するよう、残り少なくなった人生、被爆者の一人として尽力したく思っています。

(編集部注:批准国は☆オーストリア、☆クック諸島、☆コスタリカ、☆キューバ、☆エルサルバドル、☆ガンビア、 ☆ガイアナ、☆バチカン市国、☆メキシコ、☆ニュージーランド、☆ニカラグア、☆パラオ、☆パレスチナ、☆パナマ、 ☆セントルシア、☆サモア、☆サンマリノ、☆南アフリカ、☆タイ、☆ウルグアイ、☆ヴァヌアツ、☆ベネズエラ、☆ベトナム)

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