2019年1月12日 OurPlanetTV 白石草さん講演 「福島の子どもの甲状腺がんについて」

 OurPlanetTVは2001年の9.11後にできた非営利のインターネット上の独立メディアで、3.11前から様々なテーマを取り上げている。福島原発事故のいろいろな問題の中でも、被曝、健康の問題はタブー視されていて、大手のメディアもやりにくくなっている中で取材を続けている。
 今、甲状腺がんの多発について検査過剰だと言われている。健康被害は起きない、そんなに被曝していないと印象づけようと、国、県が一体となって多量の情報でアピールしている。その情報戦の中で、患者さんたちが置き去りになり、数だけが一人歩きし、ごまかしの情報があふれているという状態にある。

【県民健康調査】
 福島県では2011年から200万人を対象に世界最大規模の健康調査が行われている。外部被曝線量を推計する行動調査が主だが、ほかにいくつかの詳細な検査を行っているうちの一つが甲状腺検査。事故当時18歳以下だった38万人に甲状腺のエコー検査をするというもので、規模としては世界最大。県の最新の公式発表では、細胞診の段階で悪性と言われた人が207名、その内すでに手術を受けた人が177名。そして集計外の11名(データに出てこない人がいることが去年わかり大問題になった)と、実は他の病院でも手術がなされている可能性があるという。つまり、甲状腺がんの人が200人どころか、実は300人近く存在する可能性があるという不透明な状態に陥っている。

【福島とチェルノブイリの甲状腺がんの検出率の比較】
 甲状腺がんの検出率を比較すると、ゴメリ以外は福島の方が高い。自著「チェルノブイリ28年目の子どもたち」の取材でコロステンを取材して、子どもたちがいろいろな病気になっていることをリポートしたが、そこと比べても高い。2015年に岡山大学の津田敏秀教授が福島の子どもの甲状腺がんの比率が高いという論文を発表すると、日本中の原子力を推進する側の人たちに否定された。そして、子どもたちに不安を与えるこのような検査は人権問題だ、今すぐやめるべきだという意見が強くなっている。さらに総数を把握しにくくしている。この事故は初期の段階からきちんとした調査をせず、甲状腺がんの多発と事故の因果関係が立証できないようにされている。  その一方で、普通の市民、学校の先生や保護者などのほとんどが、子どものために検査を続けた方がよいというまともな感覚をもっている。マスコミや医療関係者が検査をやめた方がいいと主張している。「検査をしすぎて見つけなくていいものを見つけた」などと、おかしなことが真面目に話されている。

【腫瘍の急成長と重症化】
 私たちは、穿刺細胞診により悪性と診断されたとか、手術を受けたというところまでは知らされているが、その後何が起きているかを知らない。福島でもチェルノブイリでも一番多いのは乳頭がんというタイプ。福島県立医大の鈴木眞一先生がほぼ一人で執刀している。彼が公式に発表した2016年4月までの145人のうち、リンパ節転移および腫瘍が1cm以上だった人が8割で、手術しなくてよかったという人などほとんどいない。手術症例を見ると、組織外に広がっている子、リンパ節の頸部の方まで広がっている子もいる。遠隔転移の3名(男子2名、女子1名)は、検査の段階ですでに肺に転移していた。甲状腺がんはそもそも7:3ぐらいの割合で女性に多い病気だが、男の子に多いというのも問題になっている。あと急速に大きくなっていることも特徴。事故時10歳、手術時13歳という小さい子がすでに肺に転移している。  検査は2年ごとに7〜8割の人が受けている。2巡目に甲状腺がんと言われた人たちは、前回はどうだったのか。前回A1、嚢胞も結節もないと言われていた人が46.3%。A2と言われていた人が44.9%。B、問題があると言われていた人は7%にすぎない。つまり1巡目でA判定だった人が91.3%。さらに問題なのは、2巡目で腫瘍が見つかった子の中で、腫瘍が3.56cmまで成長している子がいたこと。甲状腺は小さい臓器なので、3cmというとほぼ全体を占める大きさ。2年でここまで大きくなっているのは急成長といえる。

【臨床が不透明】
 県民健康調査の研究計画書を調べてみたところ、がんになった子どもたちを対象にした研究が活発に行われていることがわかった。私が問題にしているのは、二次検査を受けた人の血液を集めて、3億円をかけた大規模な組織バンクを作っていること。これをどう利用するかは明らかになっていない。手術した子どもたちの甲状腺がんの細胞、摘出したものもデータベース化、組織バンク化して長崎大学に運び、そこでDNA解析などをして成果発表している。ネイチャーという有名な論文誌に長崎大学の先生を中心にDNAの異変を解析した結果の論文が出ていて、福島の子どもたちの遺伝子変異はチェルノブイリの子どもたちと違うと書いてある。報道では「違う」ということが強調されるが、論文を読んで心配なのは、日本の子どもたちにBRAFという遺伝子変異が多いが、BRAFの方が生命予後が悪いという論文がたくさんあることである。

【再発と遠隔転移の治療について】
 日本では、そんなに酷くなければ甲状腺がんは半摘手術(半分残す)にすることが多いが、そうすると当然再発が起こり得る。再発すると今度は全摘になり、その後アブレーション治療を受ける。アブレーション治療(予防的)とかアイソトープ治療というのは、甲状腺がヨウ素を取り込む機能を使って、わざと放射性ヨウ素を大量服用することにより甲状腺をがん細胞もろとも破壊するという治療。ヨード制限食を摂取し、体からヨウ素をすべて出してから、36億ベクレルとかの放射性ヨウ素を服用して全部破壊する。肺転移すると、基本的にもうこれしか治療法はない。甲状腺がんは生命予後がいいというが、実際に10代や20代の子たちがこういう治療まで行くと、人生はかなり大変なことになって行くように思う。

【手術とアイソトープ治療】
 首にはリンパ節がいっぱい通っていて、発声のための神経も隣接しているので見つかったら早めに手術した方がよいのだが、患者さんが増えていて、検査から手術までの時間が長い。仕方なく待っていると広がってしまう。首の脇の方のリンパ節まで転移してしまうと傷が大きくなってしまうので辛い。  アイソトープ治療の施設について。福島医大の中に入ると、2年前にできた福島国際科学医療センターという建物がある。その中のRI病棟に日本最大のアイソトープ治療の病棟(10床)がある。2017年8月末までに26人がここで治療を受けた。

(治療施設の動画視聴)国内最大。放射線を遮蔽された部屋。最大で1000ミリキュリー、37ギガベクレルまで使えるように設定されている。扉は鉛が入った重いもの。テレビ電話のような面会システム。鉛のゴミ箱。

 服用するものの線量がとても高く、医療従事者が被曝するのでこうした施設が必要になる。だが実は2010年から、アブレーションという30ミリキュリー程度の治療は外来でできるようになった。そうすると、100マイクロシーベルトぐらいに下がると患者さんは外に出てくる。その人が自宅に帰れば当然トイレからもかなり線量の高いものが排出されるが、大丈夫ということになっている。施設が足りず間に合わないから。
 ここに入院したある子は、治療の副作用で気分が悪くなってしまったが、どんなに吐いていても看護師は絶対に入ってこない。自分一人で耐えるしかなく過酷だったので、もう2度と受けたくないという。

【患者の実態】
 2016年7月に、3.11甲状腺がん子ども基金という団体ができ、甲状腺がんの子どもたちにお見舞金を支給している。福島県外の子どもたちにも支給しているが、療養費給付のデータを見ると、福島県外の子に重症例が多い。なぜかというと自覚症状が出てから検査を受けるから。アイソトープ治療を受けている子は県外の方が多い。その子たちに悩みを聞くと、将来のこと、経済的なこと、周りの人に話せない(差別されるかもしれない)等。いろいろな問題をかかえ、進路を変更したり断念したりしている。

【原発事故後のリスク】
 事故後リスク自体は増えたと言わざるを得ない。甲状腺がんは確かに予後はよいが、30年、40年経ってからの再発は多い。あと未分化がんという恐ろしいがんがあって、お年寄りしかならないと言われていたのに、2012年に日本で初めて埼玉県の18歳の女の子が未分化がんで亡くなった。全世界にほとんど症例がなく、チェルノブイリで事故の後に出ていた。そういう珍しい症例が実際に起きている。事故初期に何もしなかった国なので、自分たちの中で意識をもって子どもたちを守れるように、共に取り組みができればと思います。

⇒ ハカルワカル広場だよりの主要記事のインデックスはここにあります。

「2019年1月12日 OurPlanetTV 白石草さん講演 「福島の子どもの甲状腺がんについて」」への1件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です