広場だより19号 巻頭寄稿文 福島原発事故による水産物の放射能汚染について

福島原発事故による水産物の放射能汚染について

相澤 武子

 2016年7月のお茶会で「水産物の放射能汚染について」の題で発表の機会をいただきました。2011年3月の原発事故でどれだけ海は川は汚染されたのか?そしてそこに生息する生物の汚染の実態はどうなのか?出回っている魚は、貝類は、海藻は食べても大丈夫なのか?そのような疑問・不安は当然のことです。

さて海水や海底土の放射能汚染データは、どこが持っていると思いますか?水産庁?それとも環境庁?いいえ、じつは海上保安庁です。それも福島原発事故が起こる以前からずっと測定し続けているのです。平成27年の海上保安庁のデータから、海水、海底土の汚染状況をみてみましょう。
下図は日本近海(複数地点の平均)海水中、海底土中のセシウム137の経年変化です。海水中のセシウムは2012年以後減少していますが、海底土中のセシウムは高いままです。

縦軸は対数軸目盛、下から0.1—1.0-10-100-1000-10000となるので、見方に注意してください。
福島第一原発事故により、大量の放射性セシウムが3.5ペタ(ペタ=千兆)Bq、直接海に流入しました。
その他に大気中へ放出され、海に降下した分もあります。

大気中から降下した放射性物質や海中に放出された汚染水により海水中の放射性物質濃度は高くなるが、大量の海水により拡散・希釈されながら、水中に浮遊する懸濁物質に吸着されたり、生物に取り込まれてその排泄物や死骸として、やがて海底に堆積していきます。

水産生物はセシウムを他の塩類と区別せず体内に取り込みますが、尿などにより自然に体外に排出します。海水魚では塩類は排出されやすく、淡水魚では逆に排出されにくくなります(浸透圧の関係による)。海水魚も、回遊魚か否か、表層魚か底魚かなど生息の仕方や、何を餌にしているか、食物連鎖の位置によって汚染の状況は変わってくると考えられます。

平成27年に出された水産庁の報告書によると、事故直後は表層魚であるイカナゴやカタクチイワシに高濃度の汚染が見られたが、その後低下しています。ヒラメ、マダラ、アイナメなどの底魚はその後も高濃度汚染が報告され、福島沖合のマダラは平成26年にようやく出荷制限が解除されました。

この報告書にはいくつかの調査研究結果も掲載されています。事故以前に誕生した個体が高濃度汚染されており、事故後に生まれた個体の汚染度は小さいことから、事故以前に生まれた個体が次々と寿命を迎え、事故後産まればかりになったら、高濃度汚染個体は減少すると考えられると報告しています。これからの多年にわたる調査が、この推論が正しいかどうかを証明することになるでしょう。

海水魚の汚染の解明については、今までにまとまった研究がなく、ある意味ではこの福島原発事故により、一歩前に進んだかたちになったといえます。喜んでいいのか悲しんでいいのか…。

淡水魚では、前述したようにセシウムが排出されにくいので、海水魚とはまた違った問題があると考えられます。また川は山や森から汚染された土や植物などが流れ込み、沼や池は閉じられて、水の循環が悪くなる分、汚染物質が溜まりやすくなります。このような様々な条件があるので海の水産物とは分けて考察する必要があるでしょう。

さて、淡水魚の汚染については、日本では今までほとんどデータがありませんでしたが、ヨーロッパでは、チェルノブイリの事故後に継続的研究がなされていました。

下図はフィンランドでの継続的定点調査の図です。(「淡水魚の放射能」水口憲哉 2012 P29)

小さな森の湖で魚類のセシウム値を継続的に調査したグラフです。注目すべきはチェルノブイリ事故10年後までは減少しているが、15年後、20年後の値は10年後の値とほとんど変わっていないことです。日本でもこのような継続的調査がなされるべきでしょう。

ウクライナやベラルーシ、ロシアではチェルノブイリ後の淡水魚などの変化について厳しい報告がなされています。淡水魚の核の解体、細胞膜の厚化、卵母細胞の発生異常、精巣の破壊的変化、異常精子、通常無性生殖をおこなうイトミミズで20%が性細胞を持っていた、など生殖に関する点で多種多様な異常が見られました。(「淡水魚の放射能」水口憲哉 2012 P21参照)

2012年1月から7月まで霞ヶ浦に生息する魚類等のセシウム計測値を調べた結果、食物連鎖の上位に位置する生物ほど、高濃度に汚染されていることがわかりました。現在の霞ヶ浦(西浦)では食物連鎖の最上位は、外来魚のアメリカナマズであり175Bq/㎏、その下にウナギ127、ギンブナ138、ゲンゴロウブナ91、コイ41、エビ54、ワカサギ38、シラウオ37と続いています。

ハカルワカル広場でも水産物を測定しています。
測定依頼では、水産物の検体はあまりないのですが、それでも測定数104あり、そのうちセシウム検出は3件でした。

検 体 Cs137 Cs134
2012年 ヤリイカ(茨城産) 4.8±2.4 <3.4
2014年 ワカサギ(茨城産) 21.0±5.8 14.8±4.4
2014年 イワナ(群馬水上) 14.6±7.2 12.6±5.7

先日、べぐれでねが(秋田放射能測定室)によるアオザメの測定報告が話題になりました。アオザメ(沼津産)を乾燥させた後、ゲルマニウム半導体測定器で測定。その結果乾燥させた状態で3200Bq、濃縮前換算値(乾燥させる前の状態に戻したと仮定した場合)でCs137+134で707Bqの高値(2016/6/10)を示しました。

アオザメは、体長3m前後・体重65~135kgの大型外洋性回遊魚で、マグロやカツオ、イカなどを餌としています。食物連鎖の上では上位にいる生物ですが、回遊魚ではここまで高値の報告は他に出ていないので、今後のデータを待ちたいところです。

水産物の汚染について調べていて、一つのブログに出会いました。「フライの雑誌社ブログ あさ川日記」です。このコラムには事故後に国や自治体で調査されたほぼすべての淡水魚の測定結果が載っています(「淡水魚の放射能汚染まとめ」初回エントリ2012/2/26 )。測定結果を羅列しながら、川を愛し魚を愛し釣りを愛する想いが綴られています。ぜひ一度読んでみてください。以下はそのなかの文章です。

放射能は差別しない。しかもまだ出てる。

河川がいったん放射能汚染されたら、20年以上たっても魚の汚染は消えない。それはチェルノブイリ事故で明らかだ。かといって河川や山を除染するのは不可能だ。きわめて残念なことだけれど、福島第一原子力発電所の事故で放射能汚染された山や川、そしてそこに棲んでいる魚たちは、ぼくたちが生きている間はもとには戻らない。

だから、せめて、もうこれ以上の放射能汚染を引き起こすような原発はやめましょう、という結論になる。ごく単純な理屈だ。そもそも原発が出す核のゴミ捨て場さえ決まっていないのだ。「リリースなら釣らせてくれてもいいんじゃないか」とだけ喧伝しても汚染は消えない。こういうことになった根本要因を見つめなおさないと、本当に釣り場がなくなる。根っこを見つめてこなかったら、こうなった。私たちの代で日本の釣り場をなくしてしまっていいはずがない。(2016/09/25)

結局、放射能汚染の動きをどれだけ科学的に分析したり、予測しても、わからない点が多すぎる。しかもいったん起きた放射能汚染は人の手では消せない。核とも原発とも縁を切った方が人類は幸せになれます。(2016/05/29)

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