ハカルワカル広場だより31号  廃炉を考える 渡辺敦雄

廃炉を考える

元東芝原子力技術者 渡辺敦雄

1.経緯
 去る10月5日、ハカルワカル広場の茶話会で、11月10日に予定の浜岡原発見学に寄せて話題提供を依頼された。その講演内容を寄稿する。

 筆者は、1971年に東芝に入社し、浜岡原発(以下浜岡と略記)1~3号機の基本設計を担当した一人である。今回のテーマである浜岡の廃炉は、自分が設計した原発をいかに安全に終息させるかの、筆者にとって最後の仕事であり、この小論を契機として原発の安全安心な終息方法を読者の皆様と考える機会を共有できたらうれしい限りである。

2.原発の恐ろしさ
 エネルギー源の選択をする上で、地球市民の一員として、以下の観点を考慮しなければならない。
①安心できるか ②分散型で、地産地消に向いているか ③低二酸化炭素エネルギーか  ④国際的に独立しているか ⑤再生可能か ⑥高効率か
この観点から、原発は絶対に選択できないことを以下に述べる。

 原発は必ず事故を起こす。原子力は、他の、宇宙開発、海洋開発、医学などの巨大技術と比較し、以下の点で事故があった時の質と規模の次元が全く異なり、人類には制御不能な恐ろしいエネルギー源である。

(1)放射線障害は種の保存への障害(遺伝子損傷)であり、事故被害額も電力会社単独で責任が取れないほど膨大⇒実際に、放射線を使用して、人類に害をもたらす生物種の絶滅をした例もある

(2)使用済み核燃料の放射能の処理方法がない(プルトニウム239は10万年の管理が必要)

 だが、原子力発電はたかが電気をおこすための技術であり、自然エネルギーという代替法がある。 

 従って、原発終息の根拠は、放射線被害に関し、他の害(「交通事故死亡率」や「たばこの発がん率」)と比較して科学的に議論ができないため、技術論争ではなく、「後世に負の遺産を残すか、残さないか」の倫理の問題である。

3.廃炉と浜岡の廃炉工程の現状

(1)「廃炉」ではなく、「永久停止」を求める

 福島第一原発事故のような事故後の対応は別として、通常運転停止後の廃炉は、
①原子炉停止⇒ ②使用済み燃料を安全に保管⇒ ③系統除染・汚染水保管⇒
④即時解体⇒ ⑤放射性廃棄物保管⇒ ⑥土地の再利用・復旧、という工程を踏む。

 しかし、廃炉とは異なる、「永久停止」という方法がある。永久停止とは、原則的に施設は解体(上記④以降)せず、そのまま安全保管(例えばコンクリートで覆う)する手法である。この手法は、廃炉措置と比較して、以下の点で優れている。

① 放射性廃棄物の総量は、廃炉よりはるかに少なく、経済的

② 作業員や近傍住民への被ばく影響が少ない

(2)浜岡の廃炉工程の現状

 そもそも英国などでは、放射能の低減を待ち、100年停止して廃炉に入る工程が採用されている。100年待機の工程が望まれる中、日本では、停止した原発は直ちに廃炉措置を開始し40年ぐらいで終了と、なぜか廃炉を急いでいる。

 浜岡1~2号機の廃炉措置は2009年に開始し、2036年に終了予定である。各段階10年程度で、全4段階ある。現在施設のすべての放射能濃度の検査(第1段階)を終了し、第2段階に入った。

 現時点では、汚染度の低い、建物の外側の電気設備や空調設備の解体を終了し、いよいよ排気塔の撤去に取り掛かる予定である。

 ただ、排気塔の解体・撤去は、放射性塵埃が多量に環境に放出される恐れがあり、作業員にも近隣住民にとっても、注意を要する。

(3)廃炉費用

 電力会社の発表では1基の廃炉費用は数百億円といわれている。東海原発の実績では、1000億円である。しかし、この費用見積りには、① 汚染物の廃棄場所 ② 地元への補償 ③原状回復、などの費用が含まれていないので、これを含入すると、6000億円にもなる、とのスイスの予測評価も報道されている。経費削減(すなわち電気料金の削減)の観点でも、廃炉より永久停止が望まれる。

4.浜岡の今後

 浜岡は、以下の理由で、世界の約400基の原発の中でも著しく危険性の高い原発である。よって、早急に永久停止をしなければならない。

① 30年以内に必ず発生する南海トラフ巨大地震の発生予測場所近傍にある

② 発電所の地下に複数の活断層がある(このため、原子炉が海側に配置)

③ 遠浅で、海水取水管が600ⅿもあり、地震に弱い

④ 立地場所が日本の中心地にあり、事故時に、日本の基幹道路・鉄道・空路などの経済動脈の使用禁止による影響が計り知れない

⑤ 被害想定額は、日本の国家予算と等しい100兆円超、と予測できる

5.おわりに

 福島第一原発事故は人類史上最悪の原発事故であった。ドイツは、2011年6月の段階で、2022年までに原発の全廃を決定した。その後スイス、イタリアなどが追随した。日本は当事者であるが、いまだ原発推進国である。日本の義務は「事故を2度と起こさない」こと。

「危機こそチャンス」である。自然エネルギー開発への先導者となって、結果的に世界の核兵器の廃絶につながるエネルギー大変換を遂げ、21世紀の世界モデルを創り、「原発永久停止」を50年後の孫たちへ誇れる最大の贈り物としよう。

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