ハカってワカった話25号 鳥の巣箱の中身、1674Bq/kg

鳥の巣箱の中身

二宮 志郎

シジュウカラの巣、1674Bq/kg

ハカルワカル広場は6年以上測定活動を続けているので、最近の測定で、「まだ一度も測ったことがない」という類の検体は非常にまれになっています。そのまれな測定であった「鳥の巣箱の中身」という検体でCs137:1470Bq/kg, Cs134:204Bq/kgという測定結果が出ました。この高い数値は一体どこから来ているのでしょう。ここでの鳥の巣というのはじっさいにはシジュウカラの巣だったようです。

高い放射能値が出る場所

基本的に周囲に比べて桁違いに高い放射能が測定される可能性は次の2つによります。
1.他所から高い放射能値の物を運びこんできている
2.そこで放射能の濃縮が起こっている
八王子近辺では表土のセシウム汚染値は100Bq/kg程度が普通ですから、表土が紛れ込むようなものであれば数百という数値が出る可能性はあります。しかし、数千レベルに行くというのはそう簡単には起こりえません。
何かシジュウカラの巣に特有のプロセスがあり、上記の1か2が起こっているのでしょう。

シジュウカラの生態

シジュウカラというのは身近な鳥なので、ネットで調べてみると、たくさん資料が出てきます。個人的にいろいろ調査して写真などの資料をたくさん載せてくれているページもあり非常に参考になります。余談ですが、こういうことを調べるのはけっこう楽しくて、私はこの記事を一本書く毎に雑学的知識を一つ増やさせてもらっている気がします。
最も参考になり、放射能のことを考える上で決定的に役に立ったのは、「鳥の巣における生物間の相互作用:シジュウカラ・苔・蛾・蜂の関係」という日本鳥学会誌の論文でした。ネットで検索すればすぐに出てきます。
この論文によると、シジュウカラはその巣のほとんどをコケを集めてきて作り、それも同じ種類のコケだけ集めてくる場合が多いようです。コケの中でもハイゴケが最も多く使われているようです。
巣の材料がほとんどコケであるなら、なるほどと納得がいきます。コケの測定値はいつもかなり高いです。表土の10倍程度の数値が出てきても不思議に感じることはありません。
同じ種類のコケを集めて巣を作る習性があるのなら、たまたまそのコケが放射能が高い場合、そればかり集めてくるので巣の中身が異常に放射能が高くなるということは十分ありえるでしょう。
       

実はコケのこともよく知らない

コケの放射能が高いということは測定した経験から知っているわけですが、たいていはコケと土を一緒にして測っています。コケそのものが高いのか?、コケにこびりついている土が高いのか?、コケに放射能を濃縮する仕組みはあるのか?、などということを真剣に調べたことはありません。
一般的にコケと言っても、菌類と藻類が共生している地衣類といわれるものの中でコケと名がついているものと、コケ植物という菌類とは関係ないコケがあります。
ハイゴケなどはコケ植物に属しています。
菌類が放射能を溜め込んでいることはキノコの話などで多少学んだことがあるので、地衣類も放射能を溜め込むというのは想像がつきます。実際、「コケの放射能が高い」という話では地衣類のコケの場合が多いようです。
では、コケ植物はどうなのか?、シジュウカラはコケ植物以外に地衣類のコケも集めることはあるのか?、今回測定したシジュウカラの巣にあったのはハイゴケのようなコケ植物であったのか?、…。
いろいろと疑問が尽きません。とにかく、鳥さんたちに申し訳ないですから、もっといろいろ調べてみないといけません。

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広場だより25号 巻頭寄稿文 上村英明教授 講演会「核をさまざまに考える」

「核をさまざまに考える」

恵泉女学園大学教授 上村英明

 

みなさん、こんにちは。多摩センターにある恵泉女学園大学の上村と申します。西田さんから、映画会のときにICANの話をしてほしいと言われ、引き受けたのには理由があります。実は「わたしの、終わらない旅」を作られた坂田雅子さんのお母様は恵泉の卒業生です。その縁で大学でも上映したことがあり、その時は坂田監督と私でトークショーをやりました。この映画は、カザフスタン、フランスのラ・アーグなど、普通行かないようなところに出かけ、丁寧に撮られた映像です。ICANの話にもつながります。その意味で今日のテーマは「核をさまざまに考える」としました。

さて、ICANは国際NGOで、昨2017年のノーベル平和賞を受賞し、式典は12月にノルウェーのオスロで開かれました。そのICANの国際運営委員のひとりが川崎哲さんで恵泉の同僚です。国内ではピースボートの共同代表でもあり、核問題が専門です。私も市民外交センターという人権NGOの代表ですが、川崎さんとは分野は違うものの、古くからの友達で、大学の講師もお願いしました。

映画では、アイゼンハワー大統領の、国連における原子力平和利用についての有名な演説が紹介されています。その後、国連は核兵器や核問題の扱いに関する機関やプログラムを作ります。この中心が1963年に国連総会で採択された核拡散防止条約(NPT)とその体制ですが、これは納得のいかない不平等なものです。核保有を米ソ(今はロシア)英仏中の五カ国だけに認め、その他の国にはこれを許しません。他の国は核兵器を保有しないと宣言しなさい。そうすれば、平和利用を国際協力の下に推進してあげますよと迫る構造です。当然、それはおかしい、参加しないという国が出てきます。独立したての南スーダンを除き、NPTの非加盟国は、現在インド、パキスタン、イスラエル、そして出たり入ったりしているのが北朝鮮で、それぞれ自ら核兵器を開発しています。

これに対し、やはりこの体制では世界の核兵器とその恐怖を無くすことは難しいのではという話が出てきたのが1996年頃のことです。むしろ核兵器の保有、実験、製造などを禁止する国際条約を作り、そこにすべての国が平等に入る体制を国連は促進すべきだという考えで、それが核兵器禁止条約の発想です。そして、昨年7月に核兵器禁止条約が国連総会で採択されました。中心になったのは中米のコスタリカなどですが、その背後で環境作りをしたのがまさにICANでした。やや視点が逸れますが、保守的なノルウェーの現政府は、この条約に否定的です。それでも、平和賞を決めるノルウェー・ノーベル委員会は、ICANに平和賞を決めました。これが民主主義です。つまり、政府と意見を異にする国の機関がきちんと判断を下せることも私たちは学びたいと思います。

ICANをもう少し詳しくみてみましょう。実は核兵器廃絶に取り組んできた国際的なNGOとして長年頑張ってきた団体のひとつに「核戦争防止国際医師会議」(IPPNW)があり、自らも1985年にノーベル平和賞を受賞しています。そして、ICANはこの団体を母体として2007年にオーストラリアのメルボルンで設立されました。(現在の本部事務局は、スイス・ジュネーブにあります。)

オーストラリアでIPPNWが活動した理由は、核実験です。オーストラリアには三つの核実験場がありました。西部の沖合のモンテベロ島、南オーストラリア州にあるエミュ実験場、それとマラリンガ実験場です。現在も、環境汚染とヒバクシャは、未解決の大きな問題ですが、これらは自国ではなく宗主国イギリスの核実験によるものでした。マラリンガでは放射能実験というものもやっています。核兵器も原発も、核物質の輸送が欠かせません。輸送するトラックがテロリストに襲われた時はどうするか、トラックが爆破されて放射能が飛び散った時にどう回収するかなどの実験です。そこでも被曝する人たちが出ます。そうした被曝者の救援活動をしていたのがIPPNWオーストラリアで、そのメンバーから核兵器を包括的に廃止する条約制定のプランが出されたのです。

しかし、みなさんの関心の高い原発はオーストラリアには一つしかありません。シドニーの郊外にある医療用アイソトープを生産する原発だけです。ただ、核実験の他に、もう一つの深刻な被曝問題がウラン鉱山です。ウランは鉱山で掘って出てきます。2012年5月にオーストラリア人監督が作った“Out of Site, Out of Mine”という映画は、彼らのウランが世界で何をしているか、とくにオリンピックダムという鉱山を事例に紹介しています。なぜこの時期にこの映画が作られたかというと、そこで採ったウランが東京電力に供給され、2011年3月に福島で爆発して私たちのところに降り注いだからです。オリンピックダム産だったのです。

また、北部準州にあるレンジャー鉱山のウランは、関西電力、九州電力、四国電力に供給されています。ウランの既知埋蔵量(2015年)では23%のオーストラリアが世界一ですが、そこにも被曝者がたくさんいます。オリンピックダムもレンジャーも露天掘りの鉱山で、粉塵が時に空に舞い、川に流れ込みます。因みに、オーストラリアのウラン鉱山と日本が契約したのは1974年です。この年は貧しい地方自治体の活性化に原発を作り、お金をばら撒く電源三法が制定された年ですが、両者をやったのは当時の田中角栄首相です。そして昨今は、安倍晋三首相がよく出かけています。彼の政策には日本の原発の海外輸出があり、オーストラリアのウラン供給をセットにして、売込みを強化したいと考えているからです。

そうした背景の中で、ノーベル平和賞が10月に決まりました。お祝いに何をしてほしいと、川崎さんに尋ねると、授賞式にヒバクシャを呼べたらという話になりました。ICANの活躍は重要ですが、その活躍の土台になったのは、世界各地のヒバクシャの方たちの声です。そこで大学、また平和首長会議の一員である多摩市長に掛け合い、大学と自治体が協力してノーベル平和賞受賞式へのヒバクシャ参加を応援する募金運動を始めました。一ヶ月で550万円が集まり、それを広島、長崎、マーシャル諸島、カザフスタン、マラリンガの方々の旅費・滞在費の他、車椅子のサーローさんの支援費用等にも役立てました。ちょっとだけ自慢話をさせていただくと、オスロの授賞式は本当に素晴らしいものでしたが、ヒバクシャの方々の参加は、私たちの、広くこの多摩地域を中心に募金したお金で実現したのです。現日本政府もこの条約には推測できるように否定的ですが、私たちのこうした動きこそがヒバク国の市民社会の責務なのだと私は考えています。

用語法:
1)核兵器による攻撃でヒバクした方たちを被爆者
2)その他の核関連でヒバクした方たちを被曝者
3)両者が一緒になった場合をヒバクシャ

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安定ヨウ素剤自主配布プロジェクト in tokyo

小児科医の山田真さんからの呼びかけにより、議員や市民とともに安定ヨウ素剤自主配布会を行うことになりました。
できるだけ小さな子どもたちや若い人たちがいる家族を中心に配布できればと思っています。
申し込みは明日1/15からになります。参考に案内を送ります。
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安定ヨウ素剤自主配布プロジェクト in tokyo 始めます

<原発事故の危険性は減少している?>
2011年3月11日の東京電力福島第一原発事故から7年が経とうとしています。
しかし、危機は相変わらず続いています。破壊された原子炉の底は人が近づけない高線量で、燃料の取り出しもできない状態です。こんな状態でもう一度大地震が起きたら2011年3月を超える大量の放射性物質が飛び出して、とんでもない大惨事になるでしょう。
そして、政府は停止していた他の原発を再稼働させようとしており、日本全体が危険な状態にあります。
本来、原発事故による市民の被害は政府や電力会社が責任を持つべきですが、残念ながら政府は原発事故が起きた時に市民を守るための十分な対策を用意していません。

<安定ヨウ素剤がなぜ必要か>
原発事故はあってはならないことですが、今の状況では自己防衛の必要があります。
原発の事故では多種類の放射性物質が放出されますが、そのうちヨウ素131(放射性ヨウ素)については防衛法があります。事故直後に安定ヨウ素剤を飲むことで、放射性ヨウ素の甲状腺への蓄積を防ぐことができるのです。放射性ヨウ素の影響で、原発事故の被災者には甲状腺がんが発生しやすくなりますので、重要な被害予防策なのです。

<なぜ事前配布なのか>
しかし、政府は、原発から5キロメートル圏内を事前配布対象地域にしているだけです。それ以外の地域で安定ヨウ素剤が備蓄されている自治体もありますが、事故が起きた場合備蓄されている場所に取りに行くことは非常に困難でしょう。ですから、私たち一人一人が手元に置いておく必要があります。
事前配布は本来行政が行うべきことですが、行政に配布を促す意味も込めて、市民が自主配布を行うことにしました。

<安定ヨウ素剤とは>
安定ヨウ素剤は注意して使えば安全な薬とされていますが、ヨウ素アレルギーの人など、飲んではいけない人もいます。そこで、配布会の前に、問診票をお送りし、さらに当日は医師による説明・問診などを行って安全を図ります。

主催:安定ヨウ素剤自主配布プロジェクト
このプロジェクトは、フォトジャーナリスト広河隆一さんが世話人を務めるDAYS救援アクションの呼びかけによって始められ、小児科医山田真さんからの安定ヨウ素剤提供を受け、東京でも市民によって自主配布をしようと企画されました。

安定ヨウ素剤自主配布プロジェクト配布会
東京都内で初めての配布会を下記のように行います。
放射性ヨウ素は、お子さんにより大きな影響を与えます。
私たちは子どもたちを守っていきたいと考えていますが、今回は錠剤しか用意できませんので、錠剤の飲める方が対象です。
皆さまの申し込みをお待ちしています。

◆と き:4月1日(日)
午前:10:30~
午後:14:00~
それぞれ30分前より受付します

◆ところ:武蔵野プレイス 4階 フォーラム tel:0422-30-1905
JR・西武多摩川線 武蔵境駅 南口下車 徒歩2分

◆医 師:山田 真 氏(小児科医)ほか 数名

◆対象者:錠剤を飲むことができる方
100家族 (各回50家族まで)

◆内 容
当日は、申し込み後問診票を提出した方のみ参加できます。
医師による説明(約30分)のあと、医師による簡単な診察を行います。
(その結果、お渡しできないこともあります)
錠剤は無料です。ガイドブック(300円)ご購入をお願いします。

◆申し込み
・1月15日(月)から、定員に達するまで
・最終締め切りは2月28日(水)とします。
・下記メールに
①氏名②住所③電話④人数
⑤参加希望<午前・午後・どちらでも>のうちいずれかを選択
をご記入の上お送りください。
・申し込みいただいた方に、問診票をメールに添付してお送りします。
必要事項が記入された問診票が主催団体に届いた方から参加確認となります。
*いただいた個人情報はこのプロジェクト以外では使用しません。
Email:  youso.project.tokyo@gmail.com

関連ホームページ(こちらにチラシが2枚掲載されています)
http://diary.e-yazawa.her.jp/?eid=877767

ハカってワカった話23号 木くずの汚染はどの程度?

木くずの汚染はどの程度?

二宮 志郎

この3ヶ月間の測定結果を見て、少し気にかかったのが「木工の木くず」です。Cs137の測定値は10.9Bq/kgで誤差範囲が6.4Bqと出ています。検体重量が300gしかないこともあり、10Bq/kgは測定限界に近いところです。スペクトルを見てみましょう。

Cs137が存在する場合の特徴である662kevあたりのピークはほとんどわかりません。640kev〜700kevの範囲が少しバックグランドの赤線より上に来ているという点ははっきりしています。

こういう結果は何とも言いがたく、「微量に存在しているように思われるが、誤検出の可能性もある」というような、何とも歯切れの悪い言い方になってしまいます。はっきりさせるには高精度に測れるゲルマニウム半導体測定器の様なもので再測定するしかありません。

木材の汚染

一般的に木材の放射能汚染はほとんどない、ということになっています。樹木の汚染の大半は葉・枝の部分に行き、樹皮の部分も多少の汚染がありますが、木材に使われる心材・辺材部分への汚染の移行は非常に小さく、林業が可能なレベル(作業者の被曝量が基準値以下)の場所で取れた樹木であれば、最終製品の木材に心配しなければいけないような放射能汚染量がある可能性はないという認識です。

いい機会なので、木材の測定データがネット上にあるか調べてみたのですが、安全だということになっているせいかあまりないようです。ハカルワカルでも木材そのものを測定した記憶はありません。

国立研究開発法人・森林総合研究所というところの人達が震災のあった年の秋に調査をして、「放射性セシウムによる森林や木材への影響について」という報告を行っています。ネットで検索すればPDFファイルが見つかりますから、興味のある方は是非一読をお薦めします。

とても真剣かつ良心的な調査をしていて、私にはとても勉強になりました。一つ驚いたのは、セシウムの樹皮・辺材・心材への数年かけての移行が木の種類によって異なり、スギ心材は特に移行が大きいということです。事故後の初期にほとんど汚染が見られなかったスギ心材も数年後に出てくる可能性があるということです。

植物というのも本当に奥が深いですね。コシアブラの高濃度汚染を知った時にも驚きましたが、「一般的にこうだ」という話には決して収まってくれないものが存在しています。放射能汚染を考える場合、特にそういう点に気をつける必要があると言えます。だからこそ広範で地道な調査活動が重要になってくるのでしょう。そういう分野の研究費が削られないことを望むばかりです。

木材に数Bq/kg〜数十Bq/kg程度の汚染が仮にあった場合を考えてみます。たとえば子どもの学習机の天板がそうであった場合、その天板のせいで子どもが外部被曝する量は無視できるレベルと言えるでしょう。天板は食べることもないし、削った粉を吸い込むこともありません。「表面を削って木くずを口に入れかねない」という話があるにしても、その量は非常に微量で気にする必要はないでしょう。

残念ながら私達の身の回りにはもっと危険なものがたくさんありますね。

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広場だより23号 巻頭寄稿文 おしどりマコ&ケンさん講演会

おしどりマコ&ケンさん講演会(10月22日 クリエイトホール)講演録

石井 暁子

《きっかけ》

2011年に大阪から東京に引っ越して来て3ヶ月で原発事故が起こった。3月19日から品川の劇場で子供向けのキャンペーンの看板キャラクターとしての出番があった。一緒に出ている芸人は自分のお子さんを避難させているのに、おしどりのファンの子供たちを品川の劇場に集めるということに矛盾を感じたので、お客さんたちに自分が調べたこと、気をつけた方がいいということを伝えようと思った。誰かに何かを伝えるにはテレビや新聞ではなく、一次情報にあたらなければいけないと思い、インターネットで東京電力の記者会見を見ることにした。

当時どれだけすごい数の人が東京から逃げていたか、報道関係者も取材して知っていたのに、そのことはどこのテレビ局も流さなかった。後になって、そのことを告白し、おしどりに謝罪してきた報道番組のディレクターとも仲良くなった。

当時の不定期で長い東電記者会見をできるだけ書き起こし、勉強し始めたが、そうするうちに、テレビでライブ映像として流れる記者会見は、本当のライブより1分程遅れて流され、突っ込んだ質問が出た時など、肝心なところが放送されないようになっていることに気づいた。その遅れは放送事故を防ぐ為のものだと他の記者から聞いた。(突っ込んだ質疑は放送事故?)ずっと手を挙げていても当たらない記者がいて、たまに当たって突っ込んだ質問をすると、ほかの記者からやめろとやじが飛ぶ。知りたいと思う質問をしてくれる人(フリーランスや週刊誌の記者)がやじられるので、加勢しようと思い4月から記者会見に行くことにした。当時は毎日100人ぐらいの人が取材に来ていたが、今は激減しておしどり以外3人という日もあった。

大手の記者は人事異動があるので来なくなるし、フリーランスもほとんど来ていない。当時のことを知る記者がいないのであまり質問が出ないし、記者がふわっとした質問をすると、当時のやりとりを把握していない東電の会見者が都合のいい返事をしたりする。違っている時にはおしどりが突っ込みを入れるので、ご意見番のようになってきている。

《被曝の影響》

原発事故に関係する様々な委員会、検討会で取材者、傍聴者が激減する中、今唯一増えているのは福島県「県民健康調査」検討委員会(福島県立医科大が国の委託で福島県民の健康を調査してその結果を発表している)。おしどりは2011年に初めて一般公開された第4回から取材している。当時記者は15人前後、傍聴者は5人前後だった。2015年後半から増え始め、今は記者が50〜100人、傍聴者も100人近く、海外メディアも来ている。傍聴に来る地元の方に理由を聞くと、近所や学校で病気の人が増えているから何が起きているのか知りたくて聞きに来たという。記者の人数が増えたため、質問は一人一問で時間が来たら終わりなので、地元の人から質問を託される。昨年6月、3人から偶然同じ質問を預かった。運動部の子の方が甲状腺癌、白血病などの病気が多い気がするので、さまざまな疾患での運動部と文化部の割合を聞いてほしいというもの。(事故直後、文科省は3.8μSv/時未満なら校庭で体育や部活をしてもいいという指示文書を出した。一方2012年に除染作業員を守るために厚労省が作った法律では気をつけるべき特定線量下業務とは2.5μSv/時を超えるところ。)検討委員会でこの質問をすると、プライバシーの為調べませんといわれた。また部活動をやめたり、卒業後病気になったとしてもそれはデータに残らない。外仕事、農家の方も傍聴に来る。奇形の野菜を持って来た人は、30年農業をやってきてこんなおかしなものができたのは初めてだという。その方自身も甲状腺癌になって摘出手術をしたし、親戚や身の回りの人にも甲状腺癌が数人出ている。病院は病室が足りないほど混んでいて、お見舞いの人でいっぱいだった。野菜が売れないということ以上に農家の被曝に誰も責任をもたないことが問題。それをもっと議論してほしいと農家の方は言う。福島県農民連の政府交渉では、農業は自営業なので放射線管理区域という概念は当てはまらず自己責任という返事。避難解除になる前に放射線対策をしてほしいといっても、セシウムと共存しながら工夫して生活して下さいと言われて農家の方も怒っている。このような状況で農業を再開できるはずがないのに、農業をしないと賠償されないシステムになっている。また先祖代々の土地と自分の健康を天秤にかけて手放すことなどできないという人もいる。農家の方もこれは風評被害ではなく実害だと言っている。

《汚染ごみのゆくえ》

今だに東北、関東のあちこちに汚染ゴミのフレコンバッグが置かれている。フレコンバッグの耐用年数は3〜5年。雨ざらし、陽ざらしで中から雑草が生えて来るという状態。国が2014年に中間貯蔵施設を作って放射性物質が入ったフレコンバッグを一箇所に集めるよう各県に要請した際、福島県のみが条件付きで受け入れた。その条件とは30年後に福島県外に最終処分場を作り、そこに全ての放射性廃棄物を移動させるというもの。国は要望をのみ、JESCO法という法律に明記された。しかしあまりにその量が膨大なので、減量するために汚染土を再利用しよう、という超ウルトラCな考えが出て来た。

2015年7月から中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会が始まった。汚染土の上に盛り土して、土で土を遮蔽するというが、雨が降れば地下水が汚染される懸念がある。2015年の議論では、再利用される場所は工業用地、堤防、線路などだったが、今年の3月から緑地というのが出て来た。去年の4月に汚染土壌の再生利用を全国の自治体の公共事業として進めることが決まった。環境省の方に自治体の公共事業の緑地とは何かと聞くと、公園のことと言われた。この議論はずっと非公開で行われていたが、おしどりが情報開示請求をし、去年の8月に資料を手に入れた。日本のもともとの再利用してよいクリアランスレベルはセシウムは100Bq/kg以下。数千Bq/kgのものは原子力施設の敷地内に50年保管、管理することになっている。その法律との整合性はどうなるのかと思っていたが、この資料には、8000Bq/kgまでの汚染土を再利用するのは「新概念」と書かれている。

(国が法律違反する場合は新概念!?)100Bq/kgまで放射線が減衰する数百年後まで管理が必要なので、自治体ならなくならないだろうという前提で行う。このような処分方法をしている所が他にあるのか調べたところ、この検討会の指針に「世界的にも前例のないプロジェクト」と書かれていた。

福島県南相馬市で汚染土壌再生利用のモデル実験をし、これをもとに住民向け、自治体向けの手引きを作って、今後十年を目処に全国で再生利用を推進して行くという。先月初めてこの実証実験をやっている場所が公開されたが、市の意向で8000Bq/kg ではなく3000Bq/kgで実験をしていた。この検討会の記者会見に来ているのは環境省記者クラブとおしどりだけ。今は自治体が手を上げやすくするための政策を練ったり、反対が起こらないように国民をどう啓発していくかという議論をしている。反対の声がないのでこんなことがどんどん進んでしまう。

《ドイツのこと》

2014年からドイツの原子力に関する国際会議に呼ばれている。その前後に近所の学校にいって原発事故の話をしているが、ドイツの学生が日本の原発事故のことにとても詳しく、興味があることに驚かされる。国会事故調と政府事故調の報告書をwebの英語版で読んでいる人も多い。なぜそんなに興味があるのかと15〜16歳の学生たちに聞くと「大人になった時にどうすれば第三次世界大戦を起こさずに済むか、それを根底に全ての科目、歴史、外国語、エネルギー政策、外交問題などを学んでいます」「生物の研究をしたくて」「医師になりたくて」など理由はそれぞれ。政治にもすごく詳しくて、中高生でも支持政党が決まっている。また日本の報道の自由について、マスコミの立ち位置についての質問も多い。なぜこんなに質問ができるのかと学校の先生に聞くと、ドイツの教育は、質問をすること、発言をすることに一番重点を置いている。ドイツは民主主義の選挙でナチスのヒトラーを生み出したことをとても後悔していて、それが全ての政策の根底にある。おかしいと思っても意見を言わなかったことがヒトラーを生み出すことにつながったので、最後の一人になっても自分の意見を言う、そういう人間を育てることを教育の根底に置いているという返事だった。

ドイツにはアッセという古い放射性廃棄物処分場があるが、安全と思われていた処分地である塩の鉱山の地層が動いて地下水が入って来るようになり、麓の集落の地下水からプルトニウムが出て人々に白血病や癌が増えた。このアッセの問題がドイツが脱原発に舵をきった大きな要因の一つになっている。今も根本的な解決策はないというので連邦放射線防護庁のインゲ博士に「今後どういう道筋が考えられるのですか?」と質問すると「あなたは民主主義を知っていますか?」と返された。「民主主義は多くの国で採用されているシステムですが、最良のシステムではありません。ドイツは民主主義の選挙でナチスのヒトラーを生み出しました。愚かな市民であれば愚かな代表を選ぶのです。なので、民主主義の選挙を採用するときに重要なのは、愚かな市民であってはならないということ。市民がそれぞれ勉強して、調べて、考えて、判断をして、動かなければいけない。誰か偉い人、政治家、権力者、研究者の意見を待っている状況ではだめなのです。原子力も同じで、唯一の正解などないのだから市民が自分で調べて考えて議論をして、全員で選択肢を探していかなければならない。だから、今後どのような道筋があるのですか?などと質問してはだめなのですよ。」と言われました(笑)

(この後も楽しく勉強になるお話が続きましたが、紙面の関係でここまでのご紹介とさせていただきます。おしどりマコさん、ケンさん、本当にありがとうございました! 文責 石井暁子)

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ハカってワカった話22号 不検出になってくれない原木椎茸

不検出になってくれない原木椎茸

二宮 志郎

6月、7月の測定結果の中で、原木椎茸の2検体からセシウム137が約30Bq/kg検出されています。セシウム134の方は限界値以下不検出です。スペクトルを眺めてみても、セシウム137を示す662keVのところの膨らみははっきりしていて、セシウム137の存在は否定しようがないです。

原木椎茸に関しても「ほとんど全てが不検出」になる日がやってくることを期待しているのですが、なかなかそうなってくれません。厚生労働省の調査結果などを見ても、関東・東北エリアの原木椎茸からセシウム137が検出されるのは止まっていません。

汚染のない原木を調達するのが困難な状況が続いているのではないかと推測します。血のにじむ努力を続けている椎茸農家の人たちには本当に気の毒な状況です。福島原発事故の悲劇は、まだまだ続いているということですね。

椎茸をどのくらい食べている?

関東・東北の原木椎茸は多少のセシウム汚染があることは覚悟するとして、はたしてどの程度の量食べていて、結果的にどの程度の放射性セシウムを体内に取り込んでいると見積もればいいのでしょうか。もちろん人によって椎茸の好き嫌いもありますし、一概に言えるものではありませんが、日本人の平均的な食べ方でみたらどうなるのでしょうか。

林野庁のホームページに「きのこ関係資料」というのがあります。ここで引用したグラフで、きのこを食べる量の見当がつきます。20年くらい前からは3.3kg程度で落ち着いています。福島原発事故の後、食べ控えが起こっているのかもしれませんが、だいたいこの程度が目安なんでしょう。

さらに、この年代別消費量のグラフで椎茸とその他のきのこ類の比率がわかります。年代による差が少しあるようですが、2〜3割程度が椎茸のようです。大雑把に見て1人が年間に食べる椎茸の量は1kg程度ということになります。

50Bq/kg汚染の椎茸を平均的な量食べた場合、年間で体内に摂取する量が50Bq程度ということになります。

ICRPの預託実効線量を使った計算では年間1ミリシーベルトの許容量に達する量の1/1000以下ということなります。もちろん、椎茸以外から一切影響を受けてないということはありませんし、住む場所によっては外部被曝の影響分も加味しないといけません。

ICRPより100倍厳しい基準で見るとしても椎茸を食べる分からの被曝は現状それほど厳しく考えなくてもいいような気がします。ただ、こんな状況を二度と作らない様に努力することは次世代に対する私達の責任でしょう。

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広場だより22号 巻頭寄稿文 関東も汚染現地

関東も汚染現地

放射能からこどもを守ろう関東ネット/ハカルワカル維持会員 柳沢典子

2011年3月15日の朝9時過ぎ、千葉県柏市の自宅。20数年ほとんど鳴ることのなかった放射能検知器がけたたましく鳴り始め、福島から200km離れていても原発事故では汚染の現地になることを知った。空間線量は0.8μシーベルト超が記録され(東大測定)、数千か所に及ぶ市民による土壌調査でも、文科省の航空モニタリング調査でも、放射線管理区域とされる値であることがわかっている。幼児、妊婦は立ち入り禁止、飲食は禁止される場所、チェルノブイリ事故では避難推奨地域だ。街角には核のマークをつけるべきだが誰もつけようとしない。国は重点調査地域に手を挙げた自治体に除染費用を交付しただけだ。ガラスに溶け込んだセシウム(セシウムボール・不溶性のため肺への影響が子どもで180倍)等、放射能の各核種が舞い散る中、子どもたちは外遊びをし、学校の窓は閉じられず、グラウンドで部活をして泥まみれになった。

官邸は放射能漏れの実態を11日17時には把握しており、「関東では雨の日に個人の対応としてカッパを着ること」や乳児のミルク備蓄について原子力安全委員会緊急助言組織が提言をしていたが無視、放射性物質拡散予測システムSPEEDIも報道されることはなく、山梨あたりまでの関東圏の人々はかなりの被ばくを強いられることになった。

私はチェルノブイリ原発事故以降、食品放射能を測るボランティアを14年、また輸送時を含む原子力防災について市に要望、その経験上、放射能の影響を早期に最小限にすることの重要性を感じていた。

311後市議会に請願を数度、いくつか採択。同時に子どもの給食など食品の測定、環境の測定、除染を率先して行うパパママたちとつながるのだが、やがて市を巻き込んでいく。意識のある自治会では住民による除染を市の職員とともに行う。しかし汚染土の行き場はなく、できるだけ人のこない場所に埋めるだけだ。そして市との協働では健康問題に突っ込んでいくことは難しかった。

一方、健康を心配する親たちは茨城、千葉、埼玉とつながっていく【放射能からこどもを守ろう関東ネット】。茨城県守谷市の常総生協がゲルマニウム測定器を用意、まず市民で土壌数千か所を調査して子どもたちの健康調査を、と各省庁まで要望する。超党派議員による「原発事故子ども被災者支援法」が成立するが反応は鈍い。環境省の「福島原発事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」は日本医師会の石川理事らが、被ばくは県をまたいでいる、健康支援を早急に、といった意見を無視、病気と事故の因果関係ははじめからないとして会議が進む。業を煮やし2013年9月に親たちが立ち上げた【関東子ども健康調査支援基金】は独自に甲状腺エコー検査を行っている。スクリーニング検査を受けた子たちはすでにのべ7000人以上になり、神奈川でも始まっている。現在、甲状腺エコー検査に補助金を付ける自治体も出ている。

原発事故の健康影響は甲状腺以外にもさまざまで事故から31年たった現在でもチェルノブイリ周辺では元気な子どもが少ないと現地医師はいう。2016年9月【311こどもがん基金】が立ち上がり、甲状腺がんと診断された子どもに給付を行っている。100万人に1~2人と言われていた甲状腺がんが福島では

190人と数十倍の確率。福島以外の東京や神奈川でも4人と、甲状腺がんの子どもがでてきている。関東でもこの小さな基金に申し出がこれだけあったということは潜在的にどれくらいあるのか、なのだ。自覚症状が出てがんに気づいた場合は症状がすでに重くなってしまっているため早期発見と治療が有効。被ばくを受けた関東圏では少なくとも子どもは甲状腺チェックを受けるしくみが必要だ。国策によって被ばくをしたのだから健康に生きる権利がある。

人の痛みはもちろん数字ではわからない。進学、結婚等進路を余儀なく変更させられる。甲状腺の疾患は内臓全体に関わり疲れやすく、生きていくのがつらいと思うほど気力がなくきつい症状が出ることがある。闘えない被害者がいまだ苦しんでいる。追い打ちをかけて「復興」、「前向き」、「オリンピック」の掛け声でいっそう声が出せなくなり、自主避難者も支援打ち切りで兵糧攻め、汚染地へ帰れと追い詰められている。

福島の子どもの尿からは今も日常的にセシウムが検出されているデータがある。汚染は何十年も続く。千葉では現基準の0.23μSV/h以上の場所があちこちで見つかっている。つい先日は除染した土が埋められた場所だったか、運動会の入場門を建てるために校庭を掘ったら1μSV/hを超えたという。

汚染土は1300度で焼くとセシウムは土から離れ、フィルターに集めることができるが高くつく。貯蔵場所にも困りはて国は8000Bq/kg以下は防波堤の基礎などとして再利用するという。上は覆うというが昨今の災害の多さや規模からしてもまた露出していくだろうことは容易に想像できる。日本中で利用だから日本中が汚染されていく事実を受け入れてくれということだ。なにしろ今なお「原子力緊急事態宣言中」だから。世界的にも最大の公害であり人権蹂躙が進行している。

いろんな意味で原発事故はあなたの住むそこが汚染現地になったということだ。土に親しめないなんて生物としてどうなのか?これ以上の原発稼働などありえない。外部配管が壊れれば再び核災害、このウィークポイント施設を残して軍備拡張など茶番にすぎないと思う。

さあ自然エネルギーの電気を選ぼう、(手続きは簡単。ただしスマートメーターは不要、法律違反ではない)、
子どもの健康状態はチェックしよう、
被災者支援団体、保養団体を支援しよう。そして以下【 】、 ぜひ検索を。

【関東子ども健康調査支援基金】     神奈川でも甲状腺エコー検査 事前申込制
【3・11甲状腺がん子ども基金】    甲状腺がんと診断された子どもへ療養費給付
【放射能からこどもを守ろう関東ネット】 子どもを守るための実際的な活動
「3.11後の子どもと健康~保健室と地域に何ができるか~」 713円
         (岩波ブックレット 大谷尚子・白石草・吉田由布子 共著)

自治会住民が団地内の公園を除染

衆議院議員候補者に必死のアピール

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ハカってワカった話21号 19000Bq/kgの衝撃

19000Bq/kgの衝撃

二宮 志郎

原発推進の政府が躍起になって福島事故を終わったものにしようとしても、物理法則まで変えることはできません。6年前にセシウム137が1万ベクレルあったなら、今でも8700ベクレルは残っています。半減期が30年である以上、これはどうにもなりません。そして、物質は移動させることはできても消滅させることはできません。もし移動が起こらなければ、6年前も今もたいして変わらない量のセシウム137がそこには存在しているはずです。

1万Bq/kg程度の土が八王子のどこかの雨樋の下に今も放射線を出しながら存在しているということは十分想像の及ぶ範囲で、ハカルワカルのスタッフならさほど驚くことはないでしょう。

しかし、3月の測定値で以下の数字を見た時は、我が目を疑い、何か誤測定?と思ってしまいました。
Cs137: 16600Bq/kg, Cs134: 2790Bq/kg
合わせて19000Bq/kgを越えるこの数字は、この6年間の測定活動の中でもまだ一度も見たことのない大きな数字です。

この662keVがすさまじくするどいピークを示すスペクトルが2万ベクレルの猛烈さを物語っています。最近では検出が難しいことが多いCs134の796keVのピークも十分にはっきりわかります。

高汚染の理由は?

  • ? 雨水を集める屋根面積が大きい等の高濃縮の条件がある
  • ? 雨樋下が窪地状になっていて表土が流出しにくい

おそらく上のような状況下にあり、6年前にかなり高濃度に汚染されたものがそのまま残っていたのでしょう。

さらに、わずかずつでしょうが、再浮遊・再降下で循環するセシウムを集積し続けて、初期の高濃度汚染に積み上げたのでしょう。

こういう場所がいったいどのくらい残されているのでしょうか。想像するしかないですが、雨樋の下という場所は家の数よりずっと多いわけですから、かなりたくさんあっても不思議ではないでしょう。

もっと高汚染地域なら

八王子で高い汚染値が出た時、「八王子ですら‥」ということがいつも頭をよぎります。八王子の10倍程度汚染された地域なら、20万Bq/kgがあっても不思議ではない、100倍程度汚染された地域なら200万Bq/kgがあっても不思議ではない。そういう場所はより丁寧に除染をやっているとは言っても、除染もれは必ずあるでしょう。そういう環境の中で生活する不安はいかほどのものなんでしょうか。福島事故の影響だけでなく、チェルノブイリの影響も、核実験の影響も、どこかで今日も残り続けているわけです。

「核エネルギーと縁を切る」それ以外にないという結論はもう出ていると思うのですが。

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広場だより21号 巻頭寄稿文 森とキノコと放射能

森とキノコと放射能

維持会員 長谷川 明

 福島原発事故から6年、放射性セシウムはハカルワカルの測定結果を見ても土以外はあまり検出されなくなった。その中で、時々検出されるのが山菜の一部と野生のキノコである。キノコは森の生き物。森は国土の6割を占め、多くの放射性セシウムも森にある。初めは落葉層と腐葉土の多い土壌表層に留まり、徐々にマイナスイオンを持つ粘土鉱物の多い層へと移動し結びついて固定すると思われていたが、実際は落葉層と土壌表層に留まっていた。

なぜ落葉と粘土鉱物の少ない土壌表層部に動かず存在するのか。これは森林の物質循環に放射性セシウムが取り込まれたためと言われている。この物質循環の分解を担っているのがキノコである。ではキノコはどんな生き物か、何をしているのだろうか。植物は根から無機物を取りこみ、葉は光合成を行い、枝はその葉を支え、その先に花や果実をつくる。キノコを植物に例えると、根の様に見える菌糸は根や枝や葉の役割をしている。キノコは花や果実に相当する。つまり菌糸がキノコの本体である。菌糸の径は植物の根の1/10と細い。体外消化という方法で有機物を分解・吸収するキノコにとって細いということは外界との接触面積が大きく有利である。そのうえ、細胞は長く連なり、網の目の様に縦横無尽に張り巡らせることで、さらに効率よく取り込んでいる。その規模は我々の想像を超えている。

1992年にミシガン州の山間でのナラタケの菌床では約15万平方メートルにわたって広がり、山一つ覆い尽くすほどの大きさがあり推定重量は約100tだと言う。キノコの菌糸コロニーはこのように森林の地下に広がり森の物質循環の分解を担っている。

そのキノコの生き方は、落葉や枯死木、動物の排泄物や死骸などを分解して栄養源としたり生きた植物から養分を得て、植物には水分、窒素、リン、カリ、カルシウム、マグネシウムなどの無機物を供給している。とくに窒素、リン、カリは多量要素といい植物に多量に要求される要素である。そのうちのカリはセシウムと化学的に同じアルカリ金属のため区別せず放射性セシウムを取り込んでしまう。その取り込み方は隈なく張り巡らされた細い菌糸によって効率よく集めるのである。そのほか植物の成長促進、病原菌の侵入阻止、窒素およびリン酸吸収の促進、植物への重金属の吸収を抑制などを行っている。

その棲み家としているところは有機物の多い落葉層や土壌表層部である。種によって落葉を好むもの、分解の進んだ有機層を好むものそれぞれだが、その好むところに一様に菌糸を張り巡らせコロニーを形成している。放射性セシウムもまた同じ所に留まっている。それは、たまたま菌糸と放射性セシウムが出合わせたのではなく、菌糸が放射性セシウムを取り込んだのである。チェルノブイリ原発事故後の研究でキノコの生息域の土壌中では放射性セシウムの30%から40%が菌糸によって保持されていることが明らかになっている。森林の地下には目には見えない菌糸の森が広がっている。その菌糸が放射性セシウムを保持している。こうして、放射性セシウムは森の中に留まっている。

富士山のキノコと放射性セシウム

134の実測値から福島由来の137の値を計算すると

発表日(月/日/年) 品目 採取地点 Cs137 Cs134 Cs計(Bq/kg) Cs137の計算値 Cs134実測値
10/25/12 シロナメツムタケ 河口湖町 104 54.8 160 92 54.8
10/25/12 アカモミタケ 富士吉田市 108 39.8 150 67 39.8
10/25/12 カヤタケ 富士吉田市 89.6 48.8 140 82 48.8
10/25/12 キヌメリガサ 富士吉田市 246 97.9 340 164 97.9
10/25/12 チャナメツムタケ 富士吉田市 91.4 56.4 150 94 56.4

山梨県衛生環境研究所による検査(Ge)

測定日(月/日/年) 品目 採取地点 Cs137 Cs134 Cs計(Bq/kg) Cs137の計算値 Cs134実測値
9/10/12 イロガワリシロハツ 富士山奥庭 90 19.28 109 32 19.2
9/9/12 キハダチチタケ 富士山奥庭 170 42.8 213 72 42.8
9/9/12 トビチャチチタケ 富士山奥庭 118 72.6 191 122 72.6

八王子市民放射能測定室による検査(Nal)

福島事故の放射性セシウム137と134は1対1の割合で放出された。放射性セシウム137の半減期は30年、放射性セシウム134の半減期は2年であるから、2012年10月頃の割合を計算すると約1対0.6となる。これを基に放射性セシウム134の実測値に合わせて放射性セシウム137の値を計算すると明らかに実測値と差の大きいものがある。河口湖での放射性セシウム137の実測値と計算値はキヌメリガサ以外はほぼ同じとなる。従ってそれらは福島由来の影響によるものと思われる。同じように奥庭の実測値と計算値を比較すると、イロガワリシロハツ、キハダチチタケは実測値が計算値より2~3倍高く検出されている。それは福島事故だけでなくチェルノブイリ事故、大気圏核実験の影響が残っていた分があるため、放射性セシウム137の値が高くなっていたと考えられる。標高の高い奥庭がその影響は大きかったと思われる。しかし、富士山の奥庭は溶岩の上に苔と薄い腐葉土だけが広がる森林で土らしいものはほとんど無い。したがって森に降下した放射性セシウムと結びつく粘土鉱物も少ない。長く留まることは無いと思われるがチェルノブイリ事故から30年経った今でも留まっていることになる。何故だろうか。チェルノブイリ原発事故後の研究でキノコの生息域の土壌中に放射性セシウムの30から40%が地中の菌糸によって保持されていると言われているがそのことを物語っているのではないだろうか。

(詳しくはこちらをご覧ください。https://goo.gl/4E4WmE )

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「日本と再生」が八王子で上映されます

「日本と再生」(河合弘之監督作品)が、3月24日(金)午後6時より、(旧)八王子ニューシネマにて上映されます。再生エネルギーの可能性を探った映画です。なお、午後7時40分頃から河合弘之監督のトークもあるとのことです。

なお、4時からの映画上映はありません。6時からの1回のみです。

詳しくはこちらの「日本と再生」ホームページをご覧ください。

http://www.nihontogenpatsu.com/

*料金は1200円/シニア 1000円。

ぜひご覧ください。

ハカルワカル広場